数が増える一方で活用度が下がるマーケティングテクノロジーツール

November 30, 2023

コロナ禍以降のデジタルマーケティングの浸透により、企業のマーケティングテクノロジーへの投資は増加しています。
国内でもウェビナーツールやチャットボット、AI関連ツールなどの普及が進んでいることを感じます。
多様なテクノロジーが増え、1社あたりのテクノロジーの導入数も増えていますが、その活用度は企業ごとにばらつきがあり、必ずしも効果的に使いこなせているわけではない現状がありそうです。

この記事では、マーケティングテクノロジーの活用度傾向を紹介しながら、活用度が高まらない企業によくある要因と、どのように対応していくかを考えていきたいと思います。

コロナ禍で増えたマーケティングテクノロジーへの投資

Insider Intelligenceの2023年の調査では、アメリカでは2021年、2022年とコロナ禍の影響でB2Bビジネスにおけるマーケティングテクノロジーへの投資が21.2%、18.5%と高い伸びを示していました。
2023年には少し落ち着き、12.7%の増加にとどまっていますが、減少することなく継続的に増加していくと推測されています。

出典:Insider Intelligence

SaaSという広い視点で見ても、Productivの調査では利用ツールが2021年から2023年にかけて32.5%増加し、平均で371ものサービスを利用していると述べています。

一方で、同じ調査では導入しているツールの47%しかアクティブに使われていないという結果も示されています。

2023年のGartnerのMarketing Technology Surveyでも、導入されているマーケティングテクノロジーの機能をどの程度使いこなしているかという質問に対して、33%という非常に低い結果が示されており、この数字は2020年の58%、2022年の42%から右肩下がりに低下しています。
この傾向を反映して、Gartnerの別の調査結果では、75%のマーケターはROI改善を目的としたマーケティングテクノロジーの支出削減のプレッシャーがかかっていると回答しています。

本当に必要なマーケティングテクノロジーの機能

上記のデータから、今後も多くの企業でマーケティングテクノロジーの採用と、マーケティングテクノロジースタックの強化は進むものと考えられます。
日本国内でも、外資ベンダーだけでなくさまざまな国産ツールが生まれており、導入ハードルが下がっている領域のテクノロジーも見られます。

テクノロジーの採用を進めながら高いROIを維持するためには、定期的にマーケティングテクノロジーの評価と見直しが必要不可欠です。
その際、意識したいのは以下の3つの要素です。

機能:テクノロジーが備えている機能

価値:テクノロジーの活用によって享受できるビジネス上の価値

スキル:テクノロジーを使いこなす人的なスキル

多くのテクノロジーベンダーは優れた機能を備えたツールを提供しようとしていますが、必ずしも高機能でかつ安価なツールを入れたからといって、自社のマーケティングテクノロジーのROIを高めるわけではありません。
重要なのは、いかにビジネスでの価値を生み出せる機能を備えているかです。

さらに言うと、マーケティングチームのスキルを短期的に高めることは難しく、現実的にはツールを使いこなせるかどうかはスキルによっても制限がかかります。
そのため、最も優先度の高いツールは、ビジネスの価値を生み出せる機能を持ちつつ、自社のメンバーのスキルでその効果を発揮できる機能を持ったツールと言えます。

プライマリユーザーとセカンダリユーザーの分類

上記の3つの要素を理解したうえで、ツールが活用できているかどうか、本当に必要なツールなのかどうかの判断をしていくことが望ましいですが、一体多くの企業はどんな要因で導入したテクノロジーを使いこなせていないと感じるのでしょうか。

まず一度、ツールの活用度を測定する客観的な指標にはどのようなものがあるか、考えてみましょう。
各ツールの「利用機能数」は組織のツールへの理解度に関しては参考になる指標です。
しかしながら、ツール活用の本質としては、ツールに備わった機能を使っているかより、マーケティング目標の達成のために、ツールを高頻度に、かつ効果的に活用できているかが重要だと言えます。

ツールの「アカウント発行済みユーザーの利用頻度」をより適切な指標として用いることができます。
ただ、この指標も完璧なものではありません。
全てのツールを全てのメンバーが高頻度に使うことが、必ずしも組織が成果を出すために望ましいことではないからです。

ほとんどのツールは、マーケティングチームの誰かが必要だと考えて導入を起案しており、役割によって日常的に使う人と、一部の機能のみをスポットで使う人に分かれます。
また、MOpsのようなシステム管理者がいれば、マーケティングテクノロジースタックへ組み込むために仕様をよく理解していたりすることもあるでしょう。

そこで、アカウントを発行しているユーザーを、利用パターンに応じて2種類のユーザーに分類し、それぞれについて考えてみます。
業務上必要で、高頻度に使うユーザーを「プライマリユーザー」と定義し、そこまで利用頻度が高くない(利用頻度が高い必要がない)ユーザーを「セカンダリユーザー」として分類します。

ではマーケティングチームでの各ツールのユーザーをどのように分類すればいいか、具体的な例をいくつか挙げてみましょう。

  • Lookerのようなデータ分析ツールは、データアナリストやデータサイエンティストは日常的に利用するでしょう。しかし、各チャネルのキャンペーンを担うマーケターはそれほど頻繁に使用することはありません。
  • MOpsの担当者はCRMを日常的に使い、SalesOpsやRevOpsなど他部門のオペレーションチームと連携しながらデータの整備や効果測定を行います。しかし、それ以外のマーケティング担当者は、キャンペーン実施時や何か不具合が起きた際など、特定の顧客の情報を確認するタイミングでしかCRMにはログインしないかもしれません。
  • デザイナーはPhotoshopやIllustratorなどを日常的に利用するでしょうが、他のマーケティング担当者はデザイナーの制作物を確認するタイミングくらいでしかツールを使うことはありません。

つまり、単純に発行アカウント数を見るだけでは、その役割による利用度の違いを知ることはできません
また、プライマリユーザーは、ツールのさまざまな機能を利用するかもしれませんが、セカンダリユーザーは、基本的な機能だけで十分なことも考えられるのです。

マーケティングテクノロジーの活用診断

マーケティングテクノロジーの活用状況を診断し、その根本的な原因を考え、改善策をおすすめします。
各ツールを効果的に使いこなせているか、不十分であるか、以下の表を参考に自社の状況を考えてみましょう。

マーケティングテクノロジー活用診断と改善策

上記の表はあくまで簡易的な診断のためのもので、エンタープライズ向けの複雑なプラットフォームでは、利用率の評価にはより多くの要素が関連します。
しかし、このフレームワークは、マーケティングテクノロジースタックにおける各ツールの利用率の課題と、それを解決するための選択肢を語るうえで役立つ基本的な指針となるのではないでしょうか。

セカンダリユーザーでもツールの使用頻度が低いもののツール自体は必要な場合などは特に改善方法がないこともあります。
また、一部の機能が使われておらず、それ以外の機能を活用することで十分な価値を得られる場合もあるため、気をつけましょう。

活用度を高めるための改善策は少し抽象的ですが、効果的なのはツールのイネーブルメントに取り組むことです。
トレーニング、コーチング、ピアエンゲージメント、トライアル施策などの働きかけ、カスタマーサポートの積極的な活用、学習文化の醸成など、ツール以外の部分にも併せて投資していくことで、マーケティングテクノロジースタックから得られる価値に大きな変化をもたらす可能性があります。

マーケティングテクノロジースタックからさらに価値を得る4つのTips

最後に、マーケティングテクノロジーの活用度やROIを向上させるために、比較的短期間で行えるTipsを紹介します。

1.テクノロジーベンダーとの交渉

基本的にテクノロジーベンダーは解約やダウングレードを避けるために追加のトレーニングやサポートを提供してくれたり、場合によっては値下げに応じてくれることがあります。活用できる場合は検討しましょう。

2.ツールの整理

特に海外ツールベンダーは買収が盛んで、既存のツールに買収したツールを統合させ、機能が加わっていることが多々あります。
そのため、知らぬ間に複数のツール間で機能が重複していることがあります。
重複した機能を排除することでROIを高めることにつながりますし、スタックの統合が容易になることもあります。

3.契約ライセンス数の削減

上記の表にも記載していますが、ツールの利用は0か100かではなく、ライセンス数を調整することで金額が変動するものがあります。
利用頻度が著しく低いメンバーのライセンスはROIに見合っていないこともあるため、定期的に契約内容やアクセス者を見直すことが重要です。

4.リソースの外注

社内にスキルがなければ、外注人材によってそのスキルを埋めることも選択肢の1つです。
コストは増加しますが、外注コストとテクノロジーコストを上回る価値を享受できれば十分検討に値する選択肢ですし、経験則からも足りないスキルは外注人材と協働しながら身に着けていくことも可能なので、ある意味ではトレーニングコストと見ることも可能です。

まとめ

マーケティングテクノロジーの導入が進む中、高いROIを証明するためにもそれぞれのツールを効果的に活用できているかは非常に重要です。
ただテクノロジーが高機能であったり、安価であればいいというわけではなく、自社における各ツールに備わっている機能がもたらす価値や、それを使いこなすスキルがチームに備わっているかなど、複数の要素が関わってくることをお伝えしました。

そのうえで、チーム内での利用レベルを分類し、それぞれがどのように活用しているかを診断しながら、本当に必要なツールかどうかを判断し、最適なマーケティングテクノロジースタックを維持することを心がけていきましょう。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインターン終了後、渡米。シリコンバレーのEd Tech企業、Courseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)と、レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

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