マーケティングオペレーション(MOps)とは?

November 30, 2023

マーケティングオペレーション(Mops)とは?

マーケティングオペレーション(以下MOps)チームは、マーケティングとIT部門の架け橋となり、データマネジメントやマーケティングテクノロジーツールの管理、キャンペーンマネジメント、マーケティチームの教育などを担当します。このファンクションは日本ではまだメジャーではありませんが、Dimentional Researchが2021年に米国で行った調査では回答者の7割がMOpsの専任チームを置いていると回答しているほど、その需要は高まっています。これまで日本ではあまり語られてこなかったMOpsですが、マーケティングテクノロジーツールの数が年々指数関数的に増え、マーケティングチームが取り扱わなければいけないデータの量が膨大化している今、国内でもそのニーズが認識され始めています。

今日本企業が抱えている課題の解決の糸口になるMOps

現在、日本企業はマーケティングにおいて3つの大きな問題を抱えています。

①複雑化したマーケティングテクノロジーツール

ここ10年でマーケティングテクノロジーツールの数は指数関数的に増えてきました。2005年頃から徐々に出始めた高機能マーケティングツールの数も、Chief Marketing Technologistによると2023年時点で11,038にまで伸びています。数年前までのMartech Landscapeは目を凝らせばロゴが見えるほどでしたが、2022年のものは拡大せずには何も見えなくなってしまいました。

Source: Chiefmartec

このような背景から、従来のマーケティングスキルに加え、爆発的に増加するテクノロジーを正しく理解・選択し、効果的に活用するマーケティングの戦術設計スキルが重要視されています。多様なチャネルでマーケティング施策を実施・計測・最適化するには必然的にある程度の数のツールが必要になるため、各ツールの選定と運用はマーケティング戦略や戦術に直接的に影響するのです。組織の現状を理解し、適切なツールの選定・導入をすませ、運用プロセスを回すことこそ、MOpsチームの代表的なタスクです。

②専門性を持ったマーケター人材の不足

過去10年間でデジタルマーケティングツールが爆発的に増加し、その導入が進んできました。デジタルマーケティングの複雑化・高度化が進む一方、日本ではテクノロジーに精通した専門性を持ったマーケティング人材が圧倒的に不足しています。そもそもマーケティング部門内で役割を明確に分けた組織構造を持っておらず、マーケターはPRからマーケティングオートメーションの運用まで全て担当するという体制が多いため、ジェネラリストなマーケティング人材は多くいらっしゃいます。しかし、現代のマーケティングではマーケティングの収益効果分析やPDCAサイクルの構築など、データを活用したマーケティングモデルとテクノロジーの活用が不可欠です。マーケティングオートメーションの機能を隅々まで理解し運用できる、マーケティングが収益に与えた効果を数値で証明できる、と少し踏み入ったデジタル領域の内容になるとそのスキルを持ったマーケターの数は急減してしまいます。

マーケティングツールも高度化・複雑化している背景を考えると、デジタルマーケティングの成功にはテクノロジーの専門知識を持ったスペシャリストが必要不可欠になっているのにも関わらず、その人材育成には投資が進んでおらず需要と供給のバランスが整っていないため「なんとなくやるデジタルマーケティング」が横行してしまっているのが現状です。

③属人的なマーケティング運用

もう一つの大きな課題として、属人的なマーケティング運用が挙げられます。マーケティングができる、特定の従業員にマーケティング運用をずっと頼ってきたばっかりに、その担当者が休職・退職・転職などをした際に「◯◯さんがいないと何も回らない」という状況に陥ったことはありませんか?このような運用方法ではこれまでの成功はただ有能な従業員を確保できていた、というだけで会社組織としてマーケティングを行なっているとは言い難く、長期的な目でみるとビジネス全体に大変深刻な影響を及ぼします。個人の感覚やそれまでの経験ベースで意思決定や判断をしていると、組織にノウハウがたまらない属人的な状況が続いてしまいます。

マーケティングのプロセスはよく生産現場に例えられますが、この状態は言うなれば一人の職人の技術やカンに頼った生産方法です。この運用方法を続けると、特に深刻なマーケター不足が続いているB2B業界では人材獲得競争に勝ち続けない限り、長期的なマーケティングの成功は期待できません。
これらの解決の糸口となるのがMOpsです。


MOpsの役割

MOpsはよくマーケティングとITの架け橋と呼ばれ、その業務は、人・Tech・マーケティングプロセスを横断的に俯瞰しながら戦術を作りメンテナンスしていくことですが、主な役割は4つに分けることができます。

(Image Source: Gartner 2018)


1. 自社に最適なマーケティングテクノロジーの選定・導入・管理・運用する

近年では従来のマーケティングスキルに加え、爆発的に増加するテクノロジーを正しく理解・選択し、効果的に活用するマーケティングの戦術設計スキルが重要視されています。Chief Martecは毎年マーケティングテクノロジーランドスケープを発表しています。数年前までのMartech Landscapeは目を凝らせばいくつかはロゴが見えるほどでしたが、2020年版は拡大せずには何も見えなくなってしまいました。高機能のマーケティングツールが増えるにつれ、マーケティング部門で使うツールの数は毎年どんどん増加しています。自社のマーケティングチームで使っているツールだが、自分の業務では直接使わないので実際何のためのツールなのか、どう使うのかわからないツールもたくさんあるのではないでしょうか?

多様なチャネルでマーケティング施策を実施・計測・最適化するには必然的にある程度の数のツールが必要になります。これらのツールの検討、導入や運用、さらにプロセスの策定を担うのがMOpsチームです。マーケティングテクノロジースタックの専門家、とも言えるでしょう。デジタル中心のマーケティング活動では多様なチャネルでマーケティング施策を実施・計測・最適化するには必然的にある程度の数のツールが必要になるため、各ツールの選定と運用はマーケティング戦略や戦術に直接的に影響します。組織の現状を理解し、適切なツールの選定・導入をすませ、運用プロセスを回すことこそ、MOpsチームの代表的なタスクです。

Source: Chiefmartec

2. プロセスの策定と戦術・ベストプラクティスの集約

ツールを導入したら、部門内で活用を進めるためにプロセスを策定することが必要です。社内で標準化された運用方法が揃っていないと部門内で理解の相違が生まれノウハウが一元化されていきません。キャンペーンのネーミングルールや、チャネルの名称など、細かいところまで時間をかけて丁寧に初期のプロセス策定をすることが肝心です。このプロセスは文書に残し、今後のチームメンバーのオンボーディングに役立てることができます。NotionやConfluenceなどのツールを使ってマーケティングチームのイントラWikiページを作り、そこにツールのノウハウやベストプラクティス、FAQなどを一箇所に集約すると効果的です。しかし、文書化するだけではプロセスは実現されません。マーケティングチームメンバー全員にそれを理解し実行してもらうためにはある程度の仕組み作りが必要です。

そしてMOpsの運用で成功しているほとんどの企業では、プロジェクトマネジメントツールなどのチケットシステムを取り入れてその仕組みを体系化しています。このようにチケット管理することの一番の利点は全キャンペーン情報が蓄積され、比較分析ができるということはもちろん、MOpsチームが全て目を通しているため効率的に戦術やベストプラクティスがたまるということです。また、チケットシステムにすることでどこがボトルネックになっているのか、どのステップで停滞してしまっているのか一眼でわかるようになるため効率化向上の際にもとても役立ちます。まさに生産現場と同じような観点でプロセスの向上が図れるのです。

また、成功している多くのチームではSLA、サービスレベルアグリーメントというものを設定して各タスク完了までの日数を制定し、それを踏まえたリードタイムの設定、タスクの振り分けをしていきます。ある程度各タスクにかかる工数や日数がわかるため、マーケティングカレンダーの計画も可能になるのです。このようなプロセスがあるとキャンペーンを実行する側のフィールドマーケターもとても効率的に仕事を進めることができるようになります。実務を担当しているマーケターがキャンペーンに集中できる環境を整備することこそ、MOpsチームの重要な責務の一つです。

3. データマネジメントと分析

そしてマーケティングチームが扱うデータは膨大になっており、営業やその他部門と連携することも考えるとデータマネジメントと分析にはとても高度なスキルが求められます。もはやGoogle AnalyticsなどだけではカバーしきれなくなったマーケティングデータはBIツールやDMPなどを介して適切な管理・加工を行う必要があります。マーケティング部門全員にこのスキルを身につけさせるのは難しいでしょうし、さまざまなキャンペーンを通して適切な比較分析をするためにも、このファンクションをMOpsにまとめる企業が多くあります。場合によっては複数のプラットフォームのデータを繋ぎ合わせ、データビジュアライゼーションツールなどを使って分析したりと、複雑なシナリオもあり、データサイエンティストなどをアサインするケースもあるでしょう。新しいツールやコンセプトが勃発するこの業界でデータマネジメントや分析スキルを最新のものに保つには定期的なリスキリングが必要不可欠です。

4. マーケティングチームのテクノロジー教育

最後はマーケティングチームのテクノロジー教育です。どれだけプロセスを決めてもチームメンバーがしっかり理解して守ってくれなければ意味がありません。既存のチームメンバーはもちろん新入社員のオンボーディングも含めて、文書や定期的なセッションなどを通して正しいツールの使い方や社内のルールなどを伝えることもMOpsの大事な業務の一つです。しかし「データのエキスポート方法がわからない」「プログラムの複製方法がわからない」など、細かい質問を受けているとその対応で時間が取られてしまうことも。MOpsがマーケティング部門からの質問対応で機能しなくなってしまう例もあります。それを防ぐためにも、ツールの使い方や社内プロセスなどは全て集約して社内Wikiなどに文書化し、いつでも誰でも確認できるようにする仕組みも大事です。

まとめ

これまでのMOps担当の業務内容を4つの視点でご紹介しました。今までの内容からもお分かりいただけるように、MOpsの業務内容は全てフィールドマーケティングを担当する方々の業務効率化に繋がっています。ズバリ、MOpsチームのクライアントは自社のマーケティングチームなのです。フィールドマーケターにとってMOpsチームは縁の下の力持ちであり、MOpsがいる環境で仕事に慣れたフィールドマーケター方はMOpsのないマーケティングチームには行きたくないとおっしゃる方もいらっしゃいます。いかがでしょう。直接的にキャンペーンを動かしたりすることはないものの、マーケティング部門全体を司るMOpsの業務が大変重要なものだとお分かりいただけましたか?ビジネススキルも技術的なスキルも必要なMOpsの業務は容易ではありませんが、このファンクションがあることでマーケティング部門全体のプロセスが明確化します。ぜひ自社導入を検討してみてください。 

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
  |  
廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインターン終了後、渡米。シリコンバレーのEd Tech企業、Courseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)と、レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

Let's Talk!

レベニュー組織に関する課題やお悩みについて、ぜひお気軽にご相談ください。