攻めと守りの両面から考える、マーケティングテクノロジースタックの監査

June 21, 2023

マーケティングテクノロジーが増え、導入・活用することが増えた今日、システム部門が管理するようなシステムと同様に、重要なデータを扱うマーケティングテクノロジースタックを正しく評価することや、問題点を把握することが非常に重要であり、定期的な監査を行う必要があります。

マーケティング担当者であれば場合によっては、自分たちで監査を行うように指示されたことがあるかもしれません。しかしながら、マーケティングに携わるメンバーにとってはマーケティングテクノロジースタックの監査といっても、何をすればよいかわからない人もいるのではないでしょうか。そもそも、なぜそこまで注意を払わなければならないのでしょうか?

この記事では、マーケティングテクノロジースタックの監査について解説しながら、自社に最適なマーケティングテクノロジースタックを構築する上で気をつけておくことを紹介します。

マーケティングテクノロジースタックの監査はなぜ重要か

マーケティングテクノロジースタックの監査とは、導入しているデジタルマーケティングツールを評価することです。現在、どのようなツールを活用していて、それらがどのように連携しているのか、また、組織の目標やテクノロジーに必要な要件などをもとに、ツールのアップグレードや新たなツールが必要かどうかを把握します。

この数年、MAをはじめマーケティング戦略を強化するためにマーケティングテクノロジーやSaaSツールが増え、利用する数も増えてきました。今日、これらのツールやプラットフォームは、高度なマーケティング戦略を実行するうえで不可欠です。どんな企業も自社に最適なマーケティングテクノロジースタックを構築したいと考えているかと思いますが、その目的や目標は時間とともに変化します。しかしながら、日々の業務や施策実行に追われ、効率的なマーケティングテクノロジースタックを計画するのに必要な時間や専門知識を身につけられていない企業が多いのではないでしょうか。

そこで、マーケティングテクノロジースタックの監査が必要となるのです。 マーケティングテクノロジースタックの監査の目的は、現在のテクノロジー構成が想定通りに機能しているかどうかを判断することにあります。

マーケティングテクノロジースタックの監査を行うメリット

マーケティングテクノロジースタックの監査は、パフォーマンスを向上させ、不要な追加投資を避けることでスタックを最適化することができます。また、マーケティングテクノロジースタックの状況を把握できていれば、戦略的に投資を進めることができ、効果的に活用できているものと必要ではないものを判断できるなど、より多くの情報を集めた上で意思決定できます。

マーケティングテクノロジースタックの監査によるメリットは以下のようなものがあります。

  1. 現状のスタックで不足している領域を把握できる
  2. リソースをさらに投下するべき領域を把握できる
  3. 既存のスタックでできることを明らかにし、特定のベンダーによる囲い込みを避けられる
  4. 組織全体から既存のスタックの改善についての意見を集められる
  5. 業界のトレンドや会社の目標を反映した中長期的なロードマップを立てられる

マーケティングテクノロジースタックの監査担当者

一般的に、監査を主に担当するのはMOpsチームになることが多いです。MOpsのメンバーはさまざまな側面からマーケティングテクノロジーに精通しており、導入しているツールについても理解することができるからです。しかし、マーケティングテクノロジースタックを誰が監査するかは、組織の規模や種類によって異なる場合もあります。

例えば、少人数のマーケティングチームであれば、マーケティング部門の1人のメンバーが行うこともあります。しかし、大規模なマーケティングチームや営業チームのある組織で、マーケティングがいくつかの役割(MOps、プロダクトマーケティング、コンテンツマーケティング、デザインなど)を抱えている場合には、監査を実施するために担当者を複数割り当てる必要があるでしょう。

監査にあたっては、経営層を含めた組織内のさまざまなステークホルダーが参加することで、さまざまな観点からプロセスを網羅することができ、また、改善が必要な点が明らかになった場合には適切に対処できるようになります。

マーケティングテクノロジースタックの監査はいつ行う?

既存のマーケティングテクノロジーをすべて調査しまとめておくことは、最初は非常に困難なことのように思われるでしょう。 しかし、適切なプロセスやルール、関係者を育成していくことで、既存のマーケティングテクノロジーの監査とドキュメンテーションをスムーズに行えるようになります。

マーケティングテクノロジースタックをどの程度の頻度で監査するかは、どのくらいリソース的に余裕があるかによります。マーケティングテクノロジースタックを適切に管理するための仕組みを何かしらの形で作れるとよいでしょう。その際、対象となるツールの契約更新日を記録しておき、ツールの管理者に自動的にリマインドできるようにしておくとよいでしょう。

その際、ツールのオーナーに明確に責任を持たせるために、決まったルールで監査担当からリマインドできれば、無駄な軋轢を生むこともなくなります。

新しいスタックを構築したとき

転職して新たにスタックの管理を行うようになったり、ゼロから新しいマーケティングテクノロジースタックを構築するタイミングであれば、最初に監査のための情報をまとめておくようにしましょう。新たにスタックを構築するタイミングは、新しいツールを順次導入し、それぞれのツールの使い方、ツール間の連携、業務プロセス、その他詳細な部分までドキュメント化する必要に迫られることも多いため、監査のプロセスを浸透させ、監査を習慣化させるのに最も適したタイミングです。

スタックを組み始めたタイミングから各テクノロジーの所有者や関係者と話し合い、定期的なスケジュールを設定して、システムやプラットフォームの機能や性能を定期的に見直すことができれば、監査の習慣が根付くでしょう。

既存のスタックの監査

すでにスタックがある場合、導入済みのツールのリストを作成することは、最初は困難に感じるかもしれません。しかし、プロセスを明確にしチームを育成できれば、既存のマーケティングテクノロジースタックの監査とドキュメント化を容易に行えるようになります。

マーケティングテクノロジースタックの監査頻度

定期的に監査をすることが重要です。Martech Guruの調査では、MOps担当者の50%が四半期ごと、35%が年に1度、マーケティングテクノロジースタックを監査していることがわかりました。

監査の前提として、週次や月次などの頻度で関係者と話し合い、どのサブスクリプションや契約が更新時期を迎えているかを、対面や社内コミュニケーションツールでリマインドしたり、カレンダーで自動リマインドがなされるように設定しておきましょう。

監査の際にはベンダーとのやり取りの履歴、バグ改善や新機能リクエスト項目、乗り換えを検討しているツール、特に更新などのない無料ツールなどを確認する必要があります。これらを正しくドキュメント化できれば、チームの生産性と効率を最適化することができます。

マーケティングテクノロジースタックの監査項目

監査では、各ツールを調べたりツール同士を比較し、機能が重複しているものがあるのであればツールを統合したり、業務上必要がないものであればツールを解約したりすることが可能になります。

適切なマーケティングテクノロジースタックの監査には、以下の項目が含まれます。

導入ツールのリスト

マーケティングとセールスのプロセスで使用しているシステムをリストアップし、その長所と短所を記載します。 目標は、導入しているすべてのツールがビジネス目標の達成に貢献しているかどうかを確認することです。

例えば、Webサイトとうまく統合できないCRMプラットフォームを使用している場合、CMSとの統合性が高いCRMを新たに導入することが望ましいでしょう。

管理者とユーザーのリスト

それぞれのツールについて、管理者は誰で、ユーザーが誰であるかを明確にしましょう。評価の際には、誰がどのツールにアクセスできるのか(社内ユーザーと代理店などの外部関係者を含む)、各システムの使用頻度(毎日、毎週、四半期など)をすべてリストアップします。

各ツール間の連携

昨今マーケティングチームが使用するテクノロジーは増加しており導入に関わる設定が非常に複雑であると推測されます。スプレッドシートを使ってスタック内の各ツールの関係を記録している方も多いかと思いますが、ダイアグラムを用いて図に表すと、スタックにはどんな要素が含まれており、どのツール同士が連携し、依存関係にあるのかを可視化できます。

そのほかにも、各ツールの以下の情報をまとめておきましょう。

  • ベンダー名
  • 技術面の社内担当者
  • 支払い担当者
  • 利用部門
  • 利用開始日
  • 更新日
  • 契約金額
  • 導入理由/目的/メリット
  • データフロー
  • セキュリティ要件
  • GDPRなどの法令順守やデータ保護に関するポリシー
  • テクニカルドキュメントの場所
  • ベンダーとの関係
  • ベンダーの連絡先

マーケティングテクノロジースタックのロードマップ

監査の過程で、チームが満足していないテクノロジーが見つかることがあります。このような場合には、既存ツールを解約し、代わりとなる新たなツールの導入を検討することになりますが、切り替えて運用が定着するまでのタイムラインが明確になったロードマップを作成し、そのうえでリプレースに向けて動くようにしましょう。

ロードマップには以下を追加します。

  • リプレース先のツールには搭載され、現在のツールにはない機能と、逆になくなる機能はなにか
  • 実際のユーザーから出ている不満や問題点と、それを解消するために新しいツールに求められる点はなにか
  • 業務に必要不可欠な機能はなにか
  • データのバックアップや移行、その他リプレースに伴って起こりうる問題点はなにか

多くのツールはマーケティングスタックの中でさまざまなツールと依存関係にあるため、リプレースする前にITやその他の関係者と連携し、ツールがスタック全体に影響を与えず切り離せるようにする必要があります。同様に、新しいツールへ移行してもスタックが問題なく連携できている必要があります。

まとめ

さまざまなツールを導入し、マーケティングテクノロジースタックを構築するようになったことで、コストや機能、セキュリティの観点から適切にスタックを維持することが求められるようになりました。定期的なマーケティングテクノロジースタックの監査が求められていますが、守りの観点だけでなく、どんどん新たなツールが登場し、マーケティングの高度化を実現するという攻めの観点からも、マーケティングテクノロジースタックの監査を能動的に行うようにしましょう。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインターン終了後、渡米。シリコンバレーのEd Tech企業、Courseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)と、レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

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