ポストサードパーティクッキー時代の広告運用
January 26, 2023
7月末、Googleが延期していたChromeのサードパーティクッキーのロールアウトスケジュールを明確化しました。現時点では2023年Q3〜段階的にサードパーティクッキーの廃止が決まっています。初めてサードパーティクッキー廃止のニュースが出てから様々なメディアで大きく取り上げられました。以前からアドテク業界ではサードパーティクッキーの非効率性やプライバシー保護の脆弱性などは問題視されていたものの、とても容易に使用できることと、クッキーに頼ったアドソリューションが数え切れないほどあるのも事実で、問題を認識しつつも抜け出せないLove-hate relationshipが続いている状況でした。
SafariやFirefoxのサードパーティクッキーブロックやGDPRやCCPAなどが出た時からサードパーティクッキーの終焉は見えていたため、アドテク業界はこれまで数年にわたって独自のIDソリューションなどを開発するなど、ポストクッキー時代への準備を行ってきました。サードパーティクッキーの終焉でマーケティング業界全体に大きな影響をもたらすのは間違いありませんが、いくつかポイントを押さえておけばこれからも効率的に、そしてオーディエンスのプライバシーを重視してアプローチすることができます。今回のブログはこれまでの経緯と、これからの広告運用において重要なポイントをわかりやすくご紹介したいと思います。
そもそもサードパーティクッキーの問題点とは
当初、サードパーティクッキーはその簡便さ、スピーディーに適切なオーディエンスにリーチできること、そしてデジタル広告に明確なROIをもたらすことが一番の利点でした。しかし実態は問題だらけ。アドテクプレイヤー目線で見ると、アドブロッカーやクッキー・キャッシュデータの消去によって個人の特定が難しくなったり、おびただしい数のbotによるアドフロードが横行している状態で頭を悩ませていました。広告主目線では、投資した広告費はサードパーティデータを使用する様々な「ミドルマン」に吸収され、広告の真のROIがわかりづらく、どのプレイヤーにどこまでの責任があるのかも透明性が薄い状態でした。下の図は広告主が支払う$1のデジタル広告費がどのようにアドテク業界で分配されているかを表しています。
- 広告エージェンシーに7セント
- DSPに8セント
- 計測やフロード対策などをする様々なアドテク業者に10セント
- SSPに9セント
- パブリッシャーに51セント
- 行方がわからないものが15セント
そして消費者目線でもどこまでも追いかけられるサードパーティークッキーのプライバシー問題は大きく取り上げられました。このように、サードパーティークッキーを取り巻く状況は正直問題だらけで、デジタル広告業界全体で解決策の模索がされていました。では、今回のサードパーティークッキーの廃止後はわたしたちマーケターはどのように適切なオーディエンスを見極め、それぞれに合った広告を訴求することができるのでしょうか。以下で説明します。
ポストクッキー時代のデジタル広告運用
- ファーストパーティデータ
サードパーティクッキーの終焉によりますますその重要性が強調されているのがファーストパーティデータです。ファーストパーティデータを使って個人を特定した広告を出稿するには、広告主とパブリッシャーの両者がそれぞれ集めた自社オーディエンスのファーストパーティデータ(閲覧履歴・デモグラ情報・インテント情報など)を照らし合わせ、マッチが合ったものに対して広告を出稿するため、ファーストパーティデータの収集と適切な保存が大変重要になります。大手パブリッシャーはすでに自社のファーストパーティデータに基づいたターゲティングシステムを発表していますし、小規模パブリッシャーは他社とパートナーシップを組んで大手と肩を並べるほどのデータ量を確保しています。
ファーストパーティデータを使った広告は、オーディエンスが直接クッキートラッキングを許可した広告主とパブリッシャー間で行われるため、オーディエンスのプライバシーを最大限配慮した形で運用することができます。しかし、その難しさはファーストパーティデータの収集にかかるでしょう。大手のパブリッシャーとダイレクトディールを組めるような予算のある大企業はファーストパーティ広告運用の恩恵を大きく受けられるでしょう。企業サイズに関係なくファーストパーティデータの収集に注力すべき事実はかわりませんが、中小企業などにとって、ファーストパーティ頼りでスケールのある広告運用するのは現実的ではないかもしれません。 - コンテクスチュアルターゲティング
サードパーティクッキーの一番シンプルな代替はコンテクスチュアルターゲティングでしょう。ウェブ上のコンテンツや画像などの内容を読み取り、類似した内容の広告を出すというターゲティング方法です。広告運用の中では基本的なアプローチですが、ポストクッキー時代に向けて再度注目を集めています。
男性物の高級時計の広告を出したいブランドを例にしましょう。一番シンプルなコンテキストの使い方は、メンズファッションサイトの時計特集記事や、YouTubeの時計紹介ビデオなどの合間に広告が入るようにキーワードを設定することでしょう。これはインマーケットの対象に広告を訴求するには良いアプローチですが潜在顧客層にアプローチしたい場合は一歩引いて考える必要があります。高級時計の購入意欲がありそうな男性客はキャリアアップや車、ゴルフなんかにも興味があるかもしれない、と仮定をたてて適切なコンテキストやキーワードをチューニングしていけば、デモグラ情報なしでもある程度のセグメンテーションができるのです。現在のように個人を特定できる広告配信から一歩退いてしまうように感じる方もいらっしゃると思いますが、ポストクッキー時代にプライバシーを侵害する心配なしに、手軽に広告配信をするにはもってこいのターゲティング方法でしょう。
- IDソリューション
前述の通り、アドテクベンダーは数年間の間サードパーティクッキーに代わって個人を特定して広告を配信するためのIDソリューションの開発に力を入れてきました。IDソリューションの仕組みは、各共通IDを管理するコンソーシアムがウェブユーザーのEメールアドレスなど、定期的に変わらないデータポイントをもとにユニークIDを振り分けます。ユーザーがそのEメールアドレスを使ってウェブサイトにログインすると個人を特定し、アドテクベンダーは今までのように閲覧履歴などに基づいてターゲットした広告の配信ができます。アドテクベンダー側はメールアドレスなどの個人を特定できる情報は保持せず、ハッシュされたIDのみを使う上、IDは定期的に再生成されるため、プライバシー保護という観点でもサードパーティクッキーよりも期待ができるでしょう。また、クッキーとは違いログイン情報をもとにしているためクロスブラウザ・デバイス間で個人の特定が可能になるという利点もあります。下の図にあげられているのが現在の代表的なIDソリューションです。アドテク業界全体がこのIDソリューションに同意し使うようになれば、サードパーティクッキーを使用している現在とあまり変わらずに個人レベルで特定した広告配信ができるようになります。
しかし、サードパーティクッキーを代替するようなIDソリューションの使用に懐疑的な見方もあります。Googleはメールアドレスなどの個人識別情報を元にしたソリューションは消費者の期待や、これからの業界の変遷に耐えられないだろうとの旨のコメントを出しています。しかし、これは以下紹介するGoogleのプライバシーサンドボックスを使ってほしいという狙いもあるでしょう。実際、このようなIDソリューションを何年か前から使い始めている広告主も多く、ファーストパーティデータを自社で十分な量を持っていなくても個人を特定した広告が配信できるため、広告主にとっては魅力的なソリューションでしょう。
- Google プライバシーサンドボックス FLoC
前述の通り、Googleはアドテクベンダーの共通IDソリューションに公に賛同はしていませんが、代わりに5つのAPIからなる独自のプライバシーサンドボックスを開発しています。FLoC (Federated Learning of Cohorts)と呼ばれるそのAPIのひとつはウェブブラウザ上でAIがユーザーの行動を分析しそのデータをブラウザ側で保存。そのデータをもとに類似オーディエンスをグループ化してターゲティングを可能にするという仕組みです。あくまでブラウザ上に消費者の行動データが保存されるため消費者のプライバシーを保護しながら広告配信ができます。
これを業界全体が導入するような動きになれば世界のブラウザ利用の6割以上を占めるChrome側に全てのデータが保存されるため、業界全体がGoogle帝国になると言っても過言ではないような立ち位置になっていきます。事実、独占禁止法に障るとして訴訟も起きていますし、なにしろまだ開発・テスト段階のため今後の動向が注目されています。今後もGoogleとその他アドテクベンダーの対立は必至で、今後サードパーティクッキー廃止とともにパワーバランスが動いていくでしょう。
このように、デジタル広告業界の今後はまだはっきりと見えていない部分も多くあります。今のところ、ファーストパーティクッキーを活用した広告配信ソリューションが多く出ていますが、数年後にはまた状況が変わっているかもしれません。今までのサードパーティクッキーに頼った広告運用を一から見直し、代替策の評価を進める時期がきています。業界が大きく変遷を遂げている今、落ち着いて動向をしっかり把握し自社にあった広告運用計画を立てることが重要です。