マーケティングと営業間のリードハンドオフにおけるベストプラクティス
September 4, 2023
マーケティングから営業にリードをパスするプロセスは、商談パイプラインを増やしたい多くの企業の課題の1つです。マーケティングチームは予算とリソースをかけて営業アプローチ対象となるリードを創出するものの、それらが必ずしも適切に営業担当にアサインされ、フォローアップされているとは限りません。一方、営業はリードの検討度合いがまだ高くない、ターゲットではない、タイムリーに通知されないなどの理由で不満を持っていることが往々にしてあります。ここでは、リードのパスのプロセスに影響を与えるさまざまな変数や要因を説明し、効果的なリードのハンドオフと条件を満たすプロセスを実装するための手順を説明します。
リードのハンドオフ
「リードのハンドオフ」とは、マーケティングチームがリードへの情報提供を行い、アプローチ対象となったリードを営業担当に効率的にパスし、商談を経て成約につなげるプロセスです。多くのBtoB企業では、事業成長にあわせてデマンドジェネレーションの予算を組み、顧客獲得の役割を営業とマーケティングで分担しはじめます。理論上は、マーケティングが検討度合いの高いリードを創出し、それが営業担当に割り当てられ、営業担当は商談を通してリードの検討度合いを確認し、最終的には受注に至ります。しかしながら、現実はそう簡単にはいきません。思ったように商談化には至らず、結果として新規獲得コストが想定よりも高くなってしまうことがあります。その理由の一つとして、リードのハンドオフとリードクオリフィケーションプロセスに問題があると考えられます。
リードのハンドオフにまつわる問題
リードのハンドオフにおいて頻発する問題は以下のようなものがあげられます。
シナリオ 1
マーケティング担当者が広告施策で数百ものリードを創出したが、誰もフォローアップしなかった。
問題:パスしたリストの精査が十分でないか、営業チームの業務を考慮したリードフォローの仕組みを作れていなかった。また、誰もリード状況を把握できるレポートを作成していなかった。
シナリオ2
営業担当が「ただ興味があるだけ」の一担当者とミーティングを行うことになった。
問題:MQLの定義が広すぎる、またはスコアリングプロセスが正しく実装されていない。 営業担当者の時間は限られているので、要件を満たさないミーティングに時間を割くことは得策ではありません。また、こういったことが続くと、マーケティングからのリードを信用しなくなる可能性もあります。
シナリオ3
営業担当が、日々大量の「コンバージョンリード」のフォローアップに追われている。
問題:営業担当は現状動いている商談に集中したい中大量のコンバージョンリードを受け取ってもフォローしきれません。
資料ダウンロードなどでコンバージョンした、検討度合いがまだ明確ではないリードは継続的なフォローアップとナーチャリングが必要ですが、それを行うのは営業担当の役割ではありません。マーケティングでMQLの定義を見直し、リードの質を担保するか、インサイドセールスがいればインサイドセールスがリードを絞り込み、営業担当と実のある商談ができるようになるまで情報提供と検討促進を進めます。
シナリオ4
リードが営業に割り当てられたまま数か月間放置されており、マーケティングからのコンテンツやアップデートを受け取っていない。
問題:リードがX日後にマーケティングのナーチャリング対象として戻ってくるトリガーを実装していない。
営業とマーケティングの連携の重要性
上記で紹介したようなハンドオフに関する典型的な問題は、「マーケティングからのリードが信頼されていない」「マーケティングからのリードを無条件に受け入れすぎている」「営業アプローチ後のプロセスが構築されていない」といったことが原因となっていますが、これらは単独で起きるわけではなく、複合的に発生することもあります。営業とマーケティングが十分に連携できていないと、どれだけマーケティング部門ががんばってもその努力が無駄になってしまうとも言えます。連携ミスが起きないよう、検討する要素について考えてみましょう。
変数の洗い出し
ハンドオフのルールを作るために、まずどんな変数があるかを確認します。ルールを固める際は、常に営業側の観点で考えるようにしましょう。
- 営業チームの構成:外勤営業のみ、インサイドセールスと外勤営業の分業体制、など
- インサイドセールスの構成:1チームか、担当ごとにチームが分かれているか
- リードのアサイン:ラウンドロビン、テリトリーごとのアサイン、ABM(企業名指定)
- リードにアプローチする担当者の数
- 担当が一度にフォローアップできるリードの数
- 営業プロセス:受注までの平均期間、商談回数
- ビジネスモデル:商談単価や商流など
- 1週間あたりのリード創出量、リードソース、スコアリングの基準
MQLの設定
MQL(Marketing Qualified Lead)とは、商材に興味を持っているような行動をし、かつアプローチ対象の属性(業界、役職、年功序列)条件を満たすリードのことを指します。B2Bの場合、リードがMQLになるときの閾値は、まずは属性条件が合致しており、その次に購買につながる行動を行っているか、この2つの組み合わせです。最も重要なのは、この閾値は営業と共同で設定し、営業とマーケティングの両方が合意する必要があるということです。
アプローチ対象となる属性については必ずフィルタリングするようにしましょう。適切な人物や企業でなければ、そもそも購入してもらうことができないので、その時点で興味関心度合いは関係なくなってしまいます。行動については、リードをトラッキングしてスコアを算出します。スコアを上げる基準としては、例えば、デモのリクエスト、ウェビナーへの参加、展示会のブース訪問などがあります。
営業部門と連携し、フォローアップすべき最低レベルの行動基準と、営業部門が対応できるリードの量を確認します。基準となるスコアを設定した後、そのスコア以上のリードは営業に渡され、その閾値以下のリードはマーケティングが引き続きナーチャリングを行います。
営業担当者のキャパシティもMQLの基準値に影響します。営業が数名しかおらず、インサイドセールスもいない場合には、大量のリードをアサインしたところで現場の混乱を招くだけで、ポテンシャルの高い見込み客を逃してしまう危険性があります。しかし、チームが成長し、十分な数の担当者がアプローチできるリードを待っている状態になったら、モデルを再調整し、リードのハンドオフについて基準のスコアを調整する必要が出てくるかもしれません。 こうやって、リードスコアリングによるリードハンドオフの自動化を設定し、精度を高めていきましょう。
コンバージョンリードの扱い
リードがWebサイトからホワイトペーパーをダウンロードした場合、彼らは「コンバージョンリード」として扱われ、多くの場合は「ホットリード」の閾値を下回ることになります。コンバージョンリードをすぐに営業に渡しても、具体的な検討をしていないことが多いため、このリード群全てにアプローチしようとすると、担当者がリードの絞り込みに多くの時間を費やすことになります。
MAなどのテクノロジーを用いて興味を持たせるコンテンツを案内するなど、リードナーチャリングのシナリオを作成し、一定の情報提供を行ったうえでインサイドセールスやフィールドセールスに渡すのがよいでしょう。
一方で、営業がターゲットに設定している企業のコンバージョンリードであれば、たとえデモ依頼のような直接的な問い合わせではなかったとしても、通常のコンテンツリードよりも重要度は高いと言えます。
リードをいつ営業に引き渡すかについては、マネジメント層だけで決めるのではなく、営業担当者の意見にも耳を傾けましょう。基準を設定した後でも、担当者がリードを欲している時には、マーケティングに依頼してアサインルールを柔軟に変更できると成果が高まる可能性があります。
サービスレベルアグリーメント (SLA)
マーケティングとセールスはどうしても利益相反関係になることも多く、このリードのハンドオフプロセスをスムーズに進めるためにも部門間のルールを作成する必要があります。
- どのようなリードが営業に渡されるのか
- 営業に引き渡されるリードの属性と興味関心の最低条件は何か
- どのように営業に引き渡すのか(リアルタイム通知、CRMの所有者変更など)
- 営業は、リードが触れたキャンペーンやアセットをどのように確認できるか
これらはSLA(サービスレベルアグリーメント)呼ばれ、特定の主要なパフォーマンス指標と、営業とマーケティングの間の業務上の関係を定義する契約です。この契約では、1)リードを誰に割り当てるか、2)どのようにフォローアップするか、3)CRMでどのようにすべての活動をトラッキングするかについて、両チーム間で合意が得られるように、これらを定義していきます。その他に考慮すべきことは以下のものがあります。
- 営業はリードの種類ごとにどれくらいのペースでフォローアップするのか
- フォローアップの方法と、何回アプローチするか(メールや電話の回数)
- 営業がフォローアップしたことをどのように記録するか(例:CRMでリードのステータスにタグを付けるなど)
- リードが反応しない場合、または失注した場合はどう対応するか
- マーケティングはどのようにリードをナーチャリングするか
セールスリード(SAL)への対応
SAL(Sales Accepted Lead)とは、マーケティングが営業にハンドオフしたリードの検討度合いが正しいかを確認し、営業が受け入れたことを示すプロセスです。この基準は基本ルールで定められることが一般的です。
MQLになったリードを営業が確認し、SALになると、リードは正式に引き渡され、ここからは営業チームが責任を持って対応することになります。そして、営業マーケティング間で合意した上記のSLAに基づき、顧客対応を行います。CRMにリードのフォローアップの進捗を確認するためのリードステータスのフィールドがあり、リードがセールスファネルを移動する際に、ステータスが担当者によって更新されていることを確認してください。マーケティングチームはSALと商談作成数で評価されることが多いので、CRMでのデータ更新は特に重要です。
リードから商談への流れ
改めてリードから商談への流れを整理しましょう。
マーケティング担当者がリードを営業がフォローするのに十分な行動をとっていると判断したらMQLとなり、営業はそのリードを受け入れるか断るかを決めることができます。インサイドセールスまたはフィールドセールスがリードを受け入れる場合にはSALとなり、CRMでこのリードが所属する企業の商談を作成します。
商談の各ステージでは、CRM上のフローのすべてのステップをトラッキングできることを確認しましょう。また、キャンペーンオブジェクトで各リードとエンゲージメントのあったキャンペーンを管理することで、パイプラインに貢献したキャンペーンを把握することができます。最後に、リードが失注した場合、または反応がなくなってしまった場合は、再びナーチャリングフェーズに戻します。
リードの割り当て
営業担当者にリードを割り当てる際には、そのルールをできるだけシンプルにするようにしましょう。リードの割り当てで最も一般的なのは、以下のものです。
ラウンドロビン
営業メンバー全員に一定比率でランダムにリードが割り当てられます。
アカウントベース
インサイドセールス・フィールドセールスの各担当ごとにターゲットアカウントが事前に定められており、その企業のリードがアサインされます。
テリトリー
地方、都道府県、郵便番号、市外局番などで担当者を分けます。組織が大きくなってきたら取り入れることもありますが、正確な情報が必要になってしまい、無駄に割り振りが大変になってしまうこともあります。
セグメント
企業規模や業種ごとでセグメントを分け、その中で担当の営業担当を割り当てる。この場合はセグメント内はラウンドロビンにすることが多いです。
クローズドループプロセス(ナーチャリング)
頑張って創出したリードも、何もフォローアップしないと時間の経過とともに興味が冷めてしまいます。購買意欲がない場合でも、マーケティングから興味を誘うコンテンツを案内し、商談化に向けたコミュニケーションを続けられるようにしましょう。
いったんMQLとして営業にハンドオフたものの「まだ商談化できそうにない」「X日間反応がない」「失注した」などの場合は、リードをマーケティングに戻し、ナーチャリングフロー(コンテンツ、最新情報の共有など)に追加できるクローズドループプロセスを作るようにしましょう。CRMやMAでワークフローを設定し、リードが上記のようなマーケティングに戻す基準に当てはまった際には、自動的に「ナーチャリング」のステータスに変更され、自動的にナーチャリングが開始されます。再び何かしらの行動があった場合にはMQLとなり、ナーチャリングフローは停止されます。
気をつけたいこと
リードのハンドオフに関して考慮すべき点をお伝えしてきましたが、最後に、よく起こしてしまう5つの気をつけたいことをご紹介しておきます。
- ハンドオフの条件が曖昧である(予算がある、前向きである、など定量的でないものは避けましょう)
- リードアサインルールが複雑すぎる(XXの場合はこう、YYの場合はこうと特別ルールを設けるとプロセス管理が煩雑になります)
- 営業担当がSLAを無視している(新規リードやMQLへのフォローアップ基準を守れていない人を特定するダッシュボードやレポートを作成しておきましょう)
- スコアリングモデルに時間をかけすぎる(実際にハンドオフてみてわかる条件も出てきます)
- MQLの定義をマーケティングが勝手に決めている(必ずマーケティングとセールスの両方の意見や情報を取り入れながら進めましょう)
まとめ
リードのハンドオフを成功させる鍵は、マーケティングとセールスの間で連携を取ることです。営業に関わるすべての変数を洗い出し、リードのスコアリング、ハンドオフ、フォローアップ、活動のトラッキングの方法について合意しながら進めましょう。正しいプロセスを導入することで、コストのかかる新規リードをすべて適切にフォローアップすることができ、営業パイプラインを効果的に増やし、ビジネス成長につなげることができるでしょう。