マーケティングオペレーション(MOps)の推進について経営層から賛同を得るためのポイント

July 5, 2023

MOpsの役割

経営層からMOpsに関する理解と協力を得る前に、まずMOpsの役割について認識を揃えましょう。MOpsの役割は一言で言うと「人、マーケティングテクノロジー、マーケティングプロセスを横断的に俯瞰しながら戦術を作りメンテナンスすること」です。MOpsにとっての顧客はマーケティングチームで、彼らの業務は全てマーケティングプロセスマネジメントや効率性の向上に向けられており、施策の運用などの実務を行うフィールドマーケターたちが所属するマーケティング部門全体を管理する立場にあるのです。

MOpsはマーケティング活動を基盤として支える重要な存在であるにも関わらず、重要な存在だという認識はまだそこまで広がっていません。State of the Marketing Ops ProfessionalというレポートではMOpsチームのメンバーは、MOpsの本当の役割や価値について理解されていないと感じており、そのうえ回答者の実に32%は、MOpsのチームや役割が割り当てられないままMOps業務に携わっていることが明らかになりました。MOpsの特性上、直接的にビジネスにインパクトを与える数値的な目標を持っていなかったり、施策の実行のように目に見える役割を担当しないため、人のサポートに回ることが多いことがこの損な役回りになっているようです。

一方で、MOpsをよりよくサポートするために、会社ができる最大のことは何かという質問に対して、回答者の間で最も多かった回答は以下の2つでした。

  1. ヘッドカウントの確保
  2. 経営層のMOpsに対する理解

MOpsはマーケティング組織の生産性や効率性をあげる立場にいるため、組織的にテコ入れがなければなかなか力を発揮できません。経営層がMOpsの重要性を理解し、実際に行動に移すことができれば以下のようなメリットが生まれます。

  • 成長と売上増加を達成するため、MOpsが部門横断的に活動する
  • 業務量に見合ったヘッドカウントが割り当てられ、目的通りのリソースが確保される
  • 企業のコストとなる非効率な業務を削減するための自動化が進められる
  • ビジネスインサイトの創出とマーケティングモデル構築への投資が行われる
  • MOpsチームが適正な待遇を受けられる

経営層を巻き込むために伝えること

経営層にMOpsの重要性を理解し適切な権限とリソースを確保してもらうためには、マーケティングオペレーションの効果を示すデータを用意することが大切です。MOpsの存在が組織全体にどのような影響を与えるのか、日々の業務から離れて俯瞰的な視点で考えてみましょう。

収益の拡大

MOpsは、適切なテクノロジーの選定や活用を通し、顧客の興味関心や行動パターンを分析することで収益に影響を与えます。MOpsはこれらのインサイトをもとに、より受注可能性の高いリードを創出し、営業チームに渡すことができます。

ビジネスインパクトの発揮と効率化の実現

ガートナー社の調査によると、マーケティング活動でビジネスインパクトを出し、かつ効率性を高めている企業は全体の15%にすぎません。この15%のうちに入るには、自社に適切なマーケティングマネジメントプロセスとフレームワークを活用し、より少ないリソースでより多くのことを行うことができるよう生産性と効率性を向上する必要があります。これこそMOpsの意義です。HBRによると、生産性の高い企業は、そうでない企業とは40%以上の差があり、この生産性の差が同業他社よりも営業利益率が30%~50%も高いという、大きな利益の創出と急激な成長につながっているそうです。

営業との連携強化

SeriusDecisionsの調査では、あるB2B企業がマーケターとセールスのオペレーションを高度に融合させたことで3年間の収益成長率が24%、3年間の利益成長率が27%向上したことが明らかになっています。

経営層からの賛同を得るためのフレームワーク

経営層から賛同を得るためのステップを「SAFARI」と呼ぶフレームワークで考えてみましょう。

スポンサーシップ(Sponsorship)

社内に働きかけてくれる、スポンサーを見つけたいものです。MOpsの大半はCMOの直属であるため、マーケティングオペレーションの取り組みや 成果を広く伝えるための資料をCMOに提示するのが、良いでしょう。

連携(Alignment)

経営層にMOpsの役割を正しく理解してもらうと同時に、営業とマーケティングの連携にも注力しましょう。すべての取り組みは収益を生み出すためにあるので、収益を直接的に生み出す部門である営業チームと連携することが成功への道です。

彼らの立場を考慮する(Frame)

MOpsの重要性を伝える上では、まず経営層の立場で考えてみるようにしましょう。会社全体の目標達成に関連するように、MOpsの重要性を考えます。

賛同者を募る(Attract)

社内でMOpsに関連した話題やその重要性が理解されるよう、マーケティングチーム内はもちろん、営業やカスタマーサクセスなど関連部署を中心に周囲に働きかけましょう。

収益への貢献(Revenue Path)

収益への貢献を明確にし、そのデータを共有しましょう。アトリビューションツールを活用すれば、直接的には見えずらいマーケティング施策の貢献度が明らかになり、より複雑で効果的なマーケティング活動のためのインサイトを見せることができます。

ビジネスへの影響(Impact)

最後に、MOpsがビジネスに与える影響を示しましょう。プロセスの改善、文書化、手動プロセスを自動化する方法などについて広めていきましょう。例えば、「MOps主導のプロセス改善とテクノロジー活用を通じて、インバウンドリードへアプローチするまでの所要時間が4時間から5分に短縮された」など、データを使って伝えましょう。

経営層とのコミュニケーションのこつ

経営層から賛同を得るためには、何か大きなことを起こすという期待感を抱かせる取り組みである必要がありますが、そのためにはチェンジマネジメントが必要です。そしてチェンジマネジメントで重要なのはコミュニケーションです。
MOpsの導入はマーケティング組織の形やマーケティング運用の方法を大きく変えることになります。このように大きくプロセスの変更を伴う場合には、影響を受けるメンバーにストレスがかかることが想定されるため、チェンジマネジメントの戦略を準備しておくことが重要です。

チェンジマネジメントにおけるコミュニケーションの3つのフェーズ

事前準備

変革に取り組み始める前に、チームメンバーとは非公式な形でオープンにプロセスの変更が与えうる問題点を話し合いましょう。一人ひとりの不安を吸い上げ、変革期と変革後の役割について話し合い、取り組みについての賛同を得ましょう。また、このタイミングで経営層にも計画を伝えるとよいでしょう。

実行開始期

この段階では、作業を実行するチームメンバーと、主に関わりがあるアーリーアダプターや関連するチームのリーダーとコミュニケーションできるような環境を整備します。進行を阻む要因を把握するため日常的なコミュニケーションが重要です。

経営層には、定期的に実行状況の報告を行います。追加のリソースが必要な場合、または阻害要因が生じている場合にはその要点を説明します。

開始後

グループトレーニングや1on1のトレーニングセッションを実施し、既存の業務プロセスへ新しいプロセスを組み込みます。同時に、成果に焦点を当てたブリーフを経営層に報告し、次に何をすべきかを明確にします。また、変革期には以下のようなサポートも重要です。

  • メンバーのニーズを最優先する
  • チェンジマネジメントに積極的に取り組み、メンバーを最優先するアプローチをとることで、変化に伴う緊張や不安の多くを和らげます。直接的、間接的なステークホルダーを明らかにし、誰に、何を、いつ、どのように、変化の理由やメリット、そしてそこに至るまでのステップを伝えるかをまとめ、詳細なコミュニケーション計画を策定しましょう。
  • 成果の兆しを早期に、頻繁に示す
  • プロジェクトの初期段階での成果を積極的に共有しましょう。これはチームの功労を認めることにも、さらなるモチベーションを与えることにもつながります。

まとめ

組織的にMOpsの業務を取り入れ、マーケティング活動を変革していくためには、経営層の理解が必要不可欠です。そのためには明確な将来のビジョンをもってメンバーを巻き込み、成果を明らかにしていくことが欠かせません。理想の姿を描きながら、変革を進めていきましょう。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインターン終了後、渡米。シリコンバレーのEd Tech企業、Courseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)と、レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

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