バリュープロポジション(企業が顧客に提供できる価値を表したもの)について、重要性や作り方を紹介するとともに、成功した企業で実際に作られているバリュープロポジションの例などを紹介します。
バリュープロポジションとは一言で言うと、「企業が顧客に提供できる価値を表したもの」です。
さまざまな技術やテクノロジーの進化により、昨今のビジネスはモノの機能的価値だけでは差別化を図れず、顧客から選ばれることが難しくなっています。そこで、機能面だけでなく、顧客にとっての価値の全体像を伝えるためのバリュープロポジションを作成し、営業・マーケティング部門を中心に社内に浸透させ、一貫したメッセージで顧客に届けていくことが重要になっています。
この記事では、バリュープロポジションの重要性や作り方を紹介するとともに、成功した企業で実際に作られているバリュープロポジションの例を紹介します。
バリュープロポジションとは、冒頭でも記載したように「企業が顧客に提供できる価値を表したもの」であり、これをなるべく短くまとめたものになります。多くの場合、1文のキーフレーズと、それを補完するサブフレーズ、そして簡潔にストーリーや具体的な価値を伝える文章や箇条書きの項目で作られます。
元々はマーケティング用語として使われていましたが、現在では事業開発やプロダクト・サービス開発の文脈でも語られるようになっていますし、営業の現場でもバリュープロポジションをもとに提案を訴求していくスタイルが普及してきています。しかしながら、改めて考えたいのは、ビジネスにおける「価値=バリュー」とは一体何でしょうか。
バリューはさまざまな文脈で語られますが、バリュープロポジションの文脈でのバリューとは、商品・サービスの利用を通じて得られる「結果」だと考えます。それは多くの場合、「収益の向上」「生産性の向上」「コストカット」に結びつく形で現れるものです。この観点で考えると、多機能・高機能などの要素はあくまで価値を生み出す一部の要素であり、必ずしも顧客が大きな成果を得るために特定の機能を求めているわけではないことを理解いただけるのではないでしょうか。
バリュープロポジションを考える上でもう一つの大事な要素が「競合」です。3C分析にもあるように、「自社」「顧客」とともに「競合企業」がとても重要で、バリューは「自社が提供できて、かつ競合他社が提供できない価値」であることが求められます。競合企業では提供できない結果をもたらすことを明確に提示できれば、顧客が他でもなく自社を選ぶ理由となるのです。
バリュープロポジションの作り方はさまざまな場所で書かれていますが、この記事では、より「顧客に提供できる価値」そのものに重点を置き、どのように見つけ、言葉にしていくか、4つのステップで考えていく方法を紹介します。
価値を伝えるフレームワークの最初のステップは「問題の定義」です。最近は「ペイン=痛み」と言うこともあるのではないでしょうか。問題をできる限り明確にすることで、顧客が求める価値の解像度が高まり、どのようなストーリーを伝えるかが明確になります。
問題を設定する上では、2つの要素が関わってきます。1つ目は、顧客の頭の中で問題を現実的なもの、かつ鮮明なものにすることです。そして、2つ目は、その問題に金銭的なインパクトを結びつけることです。
とあるヘアケアメーカーのマーケティング担当者の問題について考えてみましょう。プロモーション施策として、従来から店頭販促に多くの予算を費やしていたとします。しかしながら、新商品を出してもあまり売れ行きはよくありません。一方で、ターゲットとなる消費者はSNSで美容に関する情報を収集するようになっていて、SNSで流行っている商品を、美容商材に強いECで注文することが当たり前になっています。SNSで注目を集める競合商品が「SNS売れ」で数億円の売上をもたらしたということも耳にするようになりました。
このような状況で、販促費用を集中させているために売上拡大の機会損失を生み出している、ということが言えれば、担当者にとっては非常にリアルな問題となります。
問題:競合商品と比べてSNSでの商品の話題が少ない
金銭的なインパクト:新規の売上が2倍になる機会を損失している
問題はもっと粒度を細かくしていく必要がありますが、少なくとも目の当たりになっているものであり、金銭的なインパクトも具体的に表されています。「問題」と「インパクト」をさらに突き詰めていくことで、顧客にとってより重要で緊急度の高いものになっていきます。
問題を明確に定義したところで、次はその解決策であるソリューションについて説明します。
多くの場合、営業やマーケティングは機能的な価値に焦点を当ててソリューションを売り込みがちです。機能とは、商品やサービスを購入したときに得られる具体的なものや、スペックなどを表します。例えば、「このカメラは1200万画素です」といったようなものです。
カメラに詳しい人であれば機能的な情報だけで分かってもらえるかもしれませんが、そもそも画素数とは何なのか、そして、その画素数がどれくらい高機能なのか、他の製品と比べてどうなのか、というのは多くの人にとっては分かりづらく、また機能的に高い価値を求めているわけでもありません。(セキュリティソフトウェアなど、機能が大変重要でターゲットオーディエンスもその知識を持っていることを前提としている場合は例外です。)
そのため、特に顧客にとってのベネフィットにもっと重きを置く必要があるのです。ベネフィットは、機能的に自信がある部分の「So What?」の要素になります。
先ほどのカメラの例でいくと、「ズームを3倍にしても美しい写真を撮ることができる」「暗い場所でも鮮明に写真を撮ることができる」、「旅先でいろいろな状況の思い出を残せる」といったことを伝えていくイメージです。このようにベネフィットについて話すと、見込み客はその製品から何を得られるかを正確に知ることができるようになるのです。
問題を定義し、ソリューションが与えるベネフィットを伝えた次のステップは、価値を明確にすることです。2つのパートに分けて考えます。
価値を伝える最初の部分は「バリュードライバー」です。バリュードライバーは、そのソリューションの価値を高めるポイントです。このポイントを伝え、理解してもらいましょう。
今では当たり前になった、オンライン会議システムについて考えてみましょう。このソリューションとしては「顧客訪問にかかる移動時間を減らし、1日に実施できる会議の数を増やす」や「リモートワークを可能にし、オフィスの固定費を削減する」、などが考えられます。このソリューションによって生み出される具体的なインパクトをバリュードライバーとして伝えます。顧客訪問の例では、もし営業担当者全員が週に1件打ち合わせを増やせれば、年間50件増えることになります。成約率が10%であると仮定すれば、年間では5件の商談が成立することになります。これがバリューとなります。
2つ目は、実際の金銭的価値、つまりROI(投資収益率)です。オンライン会議システムを導入して生まれた時間で行える打ち合わせを通じて、さらに5件の商談が成立するとわかっていれば、平均商談金額とかけ合わせて、最終的な数字がどうなるかがわかります。このように定量的に訴求することで、リアルさが増します。
さらに説得力をつけるため、問題、解決策(ソリューション)、価値の3つの要素を盛り込んだストーリーに落とし込みます。最も簡単で効果的な方法は、実在する顧客のストーリー、つまりケーススタディを語ることです。導入前の状況(ペインポイント)、行動(商品・サービスの導入)、結果(ROI)を含むストーリーを作成し、マーケティングのコンテンツにしたり、営業資料に盛り込んだりしましょう。その際ターゲットとする業界やセグメントごとに、最低1つずつケーススタディを作成し、複数のストーリーを語れると理想的です。
優れたバリュープロポジションを作ることは決して簡単なことではなく、場合によっては「説得力のない」ものになってしまうことがあります。また、バリュープロポジションは一度作って終わりではなく、適宜改善を図っていく必要があります。
もしバリュープロポジションが、商品・サービスの価値よりも価格について語っているのであれば、見直しが必要です。特にBtoBやBtoCの検討型商材では、決裁者は価格をあまり気にしません。逆に、最も安く購入できるものを探している人たちは、質やインパクトをあまり気にしておらず、ベネフィットを享受することをあまり深く考えていないと言えます。コストよりも価値を押し出すことで、粘り強い交渉が求められる機会が増えるでしょう。
役職が異なるステークホルダーにまったく同じ価値を提案してしまっているようであれば、効果が薄くなります。決裁権を持つCxOレベルのエグゼクティブの興味を引く提案は、必ずしもIT部門のマネージャーの興味を引くとは限りません。それぞれのステークホルダーが直面している問題は異なるため、すべての人にアピールできる万能の提案は存在しないのです。
この問題に対処するためには、彼らが日々直面している問題やペインを理解した上で、それぞれのステークホルダーに響くバリュープロポジションを微調整しながら訴求することが理想的です。部署ごとやペルソナごとに適切なバリュープロポジションを考えてみると良いでしょう。
上記でも述べているように、商品・サービスの機能やメリットは顧客に伝えた方がいいものではありますが、バリューとは異なるものです。購買者は単なる機能だけではなく、そのさきの結果を求めています。そのため、どのように問題を解決できるのか、そしてその問題を競合企業よりもより効果的・効率的に解決できるのか、ということを伝える必要があります。
バリュープロポジションを作るうえで行ってしまいがちなのが、美しい言葉ではあるものの、キーワードを並べただけで具体性に欠けており、本質的な内容を伴っていないものです。何がどのように優れているのかをクライアントに伝える必要があります。説得力をもたらすと言う点では、データを盛り込むこともおすすめです。「既存顧客の98%が取引先にもおすすめしたいと言っています」と伝えれば満足度が高いことの大きな裏付けになります。
上記のポイントを全てカバーしたバリュープロポジションが作れているにもかかわらず、うまく効果を発揮していない場合に考えたいのは、一度に多くの情報を伝えようとしすぎていることかもしれません。バリュープロポジションは、2~3文程度にまとまっていることが望ましいです。成果を正しく伝えられる内容にしながら、余計な部分はなるべく削除しましょう。シンプルで、知的で、要点を押さえた表現を心がけ、一度読むだけで理解できるようなものが望ましいです。バリュープロポジションに最も求められる要素は、興味を引きつけ、顧客から問題の詳細や現状の取り組みを聞き出すことにあります。
実際に、成長企業がどのようなバリュープロポジションを作り、顧客に対して訴求しているかを見てみましょう。バリュープロポジションが浸透している海外の例をいくつか取り上げます。
Slackは、法人・個人問わず、世界中で利用されている組織内コミュニケーションツールです。オンラインで気軽なやり取りができるため、組織やチームのつながりを維持し、生産性や社員エンゲージメントを高めることにつながります。ワークスペース内ではチャンネルが自由に作成でき、参加するのも、検索するのも非常に簡単なため、話し合いやコラボレーションが容易になります。「Slack is your Digital HQ」というバリュープロポジションはわずか5単語で作られていますが、顧客にもたらす価値を的確に示しています。
おなじみ、掃除機メーカーDysonのバリュープロポジションです。たった一文でDysonの強みや、なぜ他の掃除機ではなくDysonを選ぶべきなのかが短く、明確に、簡潔に伝えられています。
いかがでしたでしょうか。バリュープロポジションの重要性についてはさまざまなところで語られていますが、いざ自社で作成してみようとすると、まとめるのが難しいのではないでしょうか。この記事をご覧いただき、まずは叩きを作ってみて、改善を加えながら完成に近づけていくことで、よりよいバリュープロポジションに近づくのではないかと考えています。