経済不況の中どこに投資すべきか

最終アップデート: 
December 15, 2022

インフレ、戦争、COVID-19で経済的に不安定な状況が続いています。支出を出来る限り抑えていこうという大きな流れの中、あえて投資するべきエリアはどこなのでしょうか?

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不況下の切り札はブランディングとクリエイティブマーケティング

ブランディングとクリエイティブマーケティングは、長期的でリスクが高いものであると一般的には認識されています。そのため、ほとんどのマーケティング担当者はリーダー層を説得し、一定の投資を確保するのに大変苦労しています。カンヌライオンズの調査によると、ブランドの41%が、クリエイティブへの投資をステークホルダーに納得してもらうのに苦労していることがわかりました。エージェンシーのうち、品質の良いクリエイティブに投資するようクライアントを説得する自信があると答えたのはわずか8%、自社のCFOを説得する自信があると答えたのはわずか12%でした。

しかし昨今ではクリエイティブ・エコノミー(創造経済)の概念が広まり、クリエイティビティが経済を発展させるという考え方が浸透しています。質の高いクリエイティブがもたらす直接的な収益効果に関する研究が進み、クリエイティブの効果を数値化して改善することが出来るようになっているのです。

不況時にクリエイティビティに投資する理由

IDEAなどで数々のデザイン賞を受賞したアメリカのインダストリアルデザイナーMark Dziersk(マーク・ジアスク)は、自身の論文で「不況時こそ、クリエイティビティで勝負するのが良い。短期的な経費削減を優先してクリエイティビティの関連分野への投資に踏み切れなかった企業は、長期的に見ると利益ダメージが大きい」と述べています。

不況時にブランド構築やクリエイティブな取り組みに注力することはとても重要です。主な理由は2つあります。

  1. 不況の終わりに備えて有利なポジションを獲得するため

こちらのチャートが示す通り、Share Of Voice(SOV:シェアオブボイス)が8%を超える程度まで投資した企業のビジネス成長がそれ以下の企業を大幅に上回っていることがわかります。

https://www.linkedin.com/pulse/during-economic-downturns-investing-creativity-more-essential-ryan/?trk=lms-blog-b2b&src=bl-po

クリエイティブブランディングとデマンドジェネレーションに60:40、少なくとも50:50の割合で投資したブランドは、クリエイティブブランディングの投資を抑えてデマンドジェネレーションに大きく傾注したブランドと比較すると大きなビジネス成長が見られました。

不況時に商品中心の情報で直接的に購買を促す広告を積極的に打っても、今現在予算を持っていないバイヤーに購買を起こさせることはできません。しかし、ブランディングキャンペーンは不況下でも有効です。

戦略的にクリエイティブブランディングに投資したブランドは、一時は他のブランドと同様に景気後退の影響を受けたものの、その一方でオーディエンスを拡大し、マーケットプレゼンスを獲得し、圧倒的に有利なポジションを手に入れたと言えます。

  1. 結果に基づく最適化がほぼ為されていない今こそチャンスがある

ガートナーの最新のマーケティング責任者調査によると、ブランドとパフォーマンスの予算の比率はほぼ50:50だそうです。昨今のマーケティング担当者は、「結果そのもの」ではなく、「結果が測定可能か」どうかでアプローチを決定する傾向にあります。キャンペーンの成果を6ヶ月以上測定しているB2Bマーケティング担当者はわずか4%であるということからも、結果そのものに注力できていないことがわかります。また、一般的にB2Bマーケティングの購買サイクルは1年以上であるにも関わらず、B2Bキャンペーンの4つのうち3つは、2週間以内というサイクルでレビューされ、結果に基づいた最適化がなされていないそうです。

これは問題であると同時にチャンスでもあると言えるでしょう。カンヌライオンズの中でもこのような状況について触れられており、世界のトップマーケターは長期的な目線でのブランディング、クリエイティブマーケティングに比重を置くことに着目し始めています。

クリエイティビティをビジネス成長につなげる方法

実務に取りかかる際には、ACS (Award Creativity Score:カンヌライオンズ受賞数を基にマッキンゼーが開発した指標)でトップレベルに位置する企業を参考にすると良いでしょう。以下のチャートが示す通り、実際にACSで高いパフォーマンスが出ている企業の経済指標のスコアが高くなっています。

https://www.mckinsey.com/capabilities/mckinsey-digital/our-insights/creativitys-bottom-line-how-winning-companies-turn-creativity-into-business-value-and-growth

クリエイティビティをビジネス成長につなげる4つのプラクティス

1. クリエイティビティとイノベーションを日々の業務に組み込む

ACSの上位4分の1の企業では、経営幹部がクリエイティビティとイノベーションのロールモデルとなっており、目標達成を部下に促すだけでなく、自分自身がクリエイティビティとイノベーション実現の責任を負っています。実際ACS の上位 4 分の 1 の企業の 30%は、取締役会の半分以上でクリエイティビティとイノベーションについて実際に議論しています。

彼らはマーケティング費用を営業費用としてではなく、売上原価として見ることでリソース配分と意思決定を行っています。「日々のクリエイティビティへのコミットメント」で資金の配分を決めていることも参考にしたいポイントです。売上高に占めるマーケティング予算の比率は、ACS上位 4 分の 1 企業で同業他社の 2.5 倍以上です。またデータサイエンティストにも多くの予算を費やしています。

2. 顧客を熱心に観察する

ACSランキングの上位に位置する企業は、顧客を理解することに熱意をもって取り組んでいます。そのため、調査やフォーカスグループだけでなく、高度な分析、エスノグラフィック・リサーチ、行動分析など、複数の情報源を活用して、顧客を深く理解することに努めています。

そういった企業は、顧客を定期的に観察し、彼らが自社の製品やサービスの使用を通じて解決しようとしている問題を理解しようと努めています。また、顧客のニーズに関するインサイトを、テクノロジーや新しいビジネスモデルと組み合わせることで、ホワイトスペースの開拓や新たな独自のマーケティングキャンペーンを常に考案しています。

3. スピードを意識する

スピードは現代のビジネスの特徴であり、ACSでトップレベルに位置する企業のリーダーたちはこの点で他社を圧倒しています。具体的には、得られたインサイトを即時行動に移し、新製品の発売や新しいマーケティングキャンペーンに反映させています。

ACS上位4分の1の企業は、意思決定を迅速に行っています。迅速に行動する一方で、漠然とした目標ではなく具体的な成果物を定義し、誰がいつまでに成果を出すのか責任を明確にしていることも特徴的です。ACSスコアが上位4分の3の企業は「明確な目標」を持ち、その目標に対して「定期的なトラッキングと報告」を行っているのに対し、ACSスコアが下位の企業では40%にとどまっています。

4. 適応作業を繰り返す

ACSの上位4分の1の企業では、3分の2近くが「初期の市場シグナルから学ぶことができた」と回答しています。彼らは、新製品の発売は、マーケットからのフィードバックを得るためのプロセスの始まりにすぎず、それが継続的な進化と改善の基礎となるこということを理解しているのです。新商品の発売開始、あるいはマーケティングキャンペーンのローンチ後であっても、柔軟性を持って積極的に適応作業を繰り返すことで結果に繋がります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。直接的効果が見えにくい分野への投資をリーダー層に説得するのは、この不況下には特に至難の業かもしれません。しかし不況下だからこそブランディングやクリエイティビティの重要性が増しているということがお分かり頂けたかと思います。こちらではブランディングの効果を具体的に数値で示す方法が紹介されていますので、ぜひご参考にしてみてください。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。