Gartner Marketing Symposium 2024 参加レポート

最終アップデート: 
August 6, 2024

今月の初めにアメリカのデンバーで開催されたGartner社のMarketing Symposium 2024に参加しました。今年のテーマは「次のディスラプションのなか、マーケティングを推進する」。カンファレンスのレポートをお届けします。

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ゼロワングロースでは、最先端の業界知識を定期的にインプットすることを重要視しています。その一環として、今月の初めにアメリカのデンバーで開催されたGartner社のMarketing Symposium 2024に参加しました。今年のテーマは「次のディスラプションのなか、マーケティングを推進する」。これまで私が個人的に参加したカンファレンスと比べると、各セッションの質が大変高い印象でした。施策レベルのセッションやラーニングが中心のカンファレンスが多い中で、今回はマーケティング全体の戦略、これからの組織構築について重要なことなど、ハイレベルな戦略的な考察を得られる数日間でした。
数多くのセッションが行われ、多くの学びがありましたが、このブログではメインキーノートの内容を中心にご紹介します。

「適応と発展」からディスラプションを推進する組織へ

キーノートでは、変化の激しい現代のマーケティング組織に求められることが議論されました。過去10年のマーケティングの変遷を振り返ると、以下の3つの課題が常に共通していることがわかります。

1. マーケティングと営業のアライメント

2. デジタル戦略の最適化

3. 顧客体験の改善

これらの課題は、挑戦的な目標、組織内からの評価、絶え間ない適応力によって妨げられてきました。そしてマーケティング組織はこれまで「適応と発展」のスタイルを続けてきました。家に例えると増築やリフォームを繰り返してなんとか変化の波に耐えてきたのですが、AIが引き起こす変革は規模が異なります。後付け対応の増築やリフォームではなく、新しいフロアプランの家、つまり新しいマーケティング組織の形や運営方針が必要になっているのです。

新たな時代の課題と必要なシフト

マーケティング予算が2023-2024年で15%減少している中で、消費者の期待の変化、データプライバシー問題、人材不足、内部からのプレッシャー、バイヤージャーニーの複雑化、ブランドロイヤリティの低下といった新たな脅威が存在しています。こうした環境では、単に適応を繰り返すだけではなく、「ディスラプションを推進する組織」へとシフトする必要があります。

さらに生成AIの登場は大きな変化をもたらしています。企業全体の予算の7%がAIに投資されているのに加え、26%のCMOがヘッドカウントの縮小を予定しています。AI駆動のマーケティング組織への変革が叫ばれる中、このような状況でマーケターとして活躍をするためにはこれまでと違うスキルが重要になってくるのが明白ですね。ではこれからの大きく急速な変化の波に耐えるマーケティング組織にするには何が必要なのでしょうか。Gartnerのスピーカーは以下を挙げていました。

AI駆動の組織、人材、テクノロジーデザイン

ツールとしてAIを使うのではなく、テクノロジーと人材の相互依存関係を作ることが重要になります。AIの活用を組織全体に埋めこみ、信頼される基盤として機能するように体制を整える必要があります。

日本においても「AIに仕事が取られる」可能性についてたくさんの人が議論をしています。マーケティングにおいてはキャンペーン計画や実行の部分の多くがAIに置き換えられることは確実でしょう。(Microsoftのマーケティング用のCopilotを見るとゾッとする方も多いでしょう)そんなAIと人材の相互依存が起きる時代の中、生き残った生身のマーケターの課題となるのが論理的、倫理的、戦略的、科学的スキルの低下です。これからの時代、AIを使うのが当たり前の世の中になるとその裏付けや論理的思考を求められる場が少なくなり、その筋肉が退化していくことが予想されます。この理由から、グローバルのCMOは今からこのような領域のトレーニングやリスキリングをどう行うか、検討を始めています。

コラボレーションの取捨選択

特にAIが組織全体に影響を出す中、部門を超えたクロスファンクショナルプロジェクトがどんどん増加する傾向があります。ショッキングなことにGartnerの調べでは、マーケティングはクロスファンクショナルの活動に他の部門よりも17%多く時間をかけており、CMOも、チームもチームも約48%の時間をクロスファクショナル活動にかけているのにも関わらず、組織の55%はマーケティングの活動を重要だと感じていないというデータが出ています。

これまで組織のサイロ化をどうなくすか、というところが集中されていましたが必ずしも「クロスファンクショナルの活動が良い」というわけではない、ということです。クロスファンクショナルプロジェクトは過剰なステークホルダーやフィードバックを生むため非効率性を産んでいるケースも多いのではないでしょうか。これからは誰とどこでコラボレーションするべきかを戦略的に取捨選択する必要がありそうです。いつコラボレーションするか、意思決定のクライテリアと、どこまでコラボレーションするか限度を決め、マーケティングインパクトに繋がるか否かをベースに判断することが求められています。

マーケティングのバリュープロポジションの再考

マーケティングが組織に提供しているバリューポジションはなんでしょうか。多くのCMOにマーケティング組織の強みを一言で答えてもらうと「ビジネス成長のドライバー」であること、と答えるそうです。もちろん、マーケティングに数字を追い求めることは必要不可欠です。ただ、そればかりに集中するばかりにマーケティングの基礎であり大変重要な「差別化」が疎かになってしまっているケースが多いとGartnerは述べます。これからAIが台頭する中で、コンテンツは溢れかえり、プッシュ型のマーケティングやセールスアプローチの効果は薄れることが予測されている中で、差別化ができていなかったら勝ち目がない、というのです。特にB2Bの企業においてはそのチャレンジが大きいでしょう。

まとめ

Gartner Marketing Symposium 2024は、マーケティング組織がディスラプションを推進し、生成AIの活用や戦略的なコラボレーションを通じて未来の成功を築くための重要な知見を提供しました。これからもゼロワングロースは、最新の業界知識を取り入れ、先進的なマーケティング戦略を追求していきます。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。