営業や経営層からABMの合意を得る方法

最終アップデート: 
August 6, 2024

ABM戦略を取り入れることは、それなりの意思や目的を持っているのではないかと思います。この記事では、マーケティングチームがABMに取り組む際に、どのように営業や経営層から合意を得て、マーケティング活動に変化をつけていけばよいかのヒントを紹介します。

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多くのBtoB企業がマーケティングに取り組むようになった昨今、リード(見込み客)ベースのマーケティングの概念は一般化しました。数年前からABMもホットワードになってはいますが、必ずしも多くの企業が明確にABMに取り組めているわけではないように感じられます。ABMはうまくいけば高い成果が見込まれ、ビジネスインパクトが大きくなりますが、ホットリードをどんどん営業につないでいくリードベースのマーケティングと比べると、短期的には成果が落ち込むでしょうし、なによりターゲット企業の選定や、ターゲット企業に向けて営業と連携しながらメッセージを発信していくことは大きな労力を伴うものです。それでもABM戦略を取り入れることは、それなりの意思や目的を持っているのではないかと思います。この記事では、マーケティングチームがABMに取り組む際に、どのように営業や経営層から合意を得て、マーケティング活動に変化をつけていけばよいかのヒントを紹介します。

なぜABMに取り組む必要があるのか

BtoBのデジタルマーケティングにおいて問い合わせや資料ダウンロード、セミナーや展示会などでリードを獲得し、CRMを使って顧客情報を管理し、MAでメール配信やホットリードを通知していく、といったリードベースのデマンドジェネレーション活動に取り組む企業がほとんどではないでしょうか。また、マーケティングに関わらない他部門からみると、マーケティング部は「新商品やサービスを考える部署だ」「顧客の声を拾い上げ、新たな販売方法を考える部署だ」などと、期待されていることが多いでしょう。

ニッチな製品サービスを持っているため、定置網漁ではなく、ターゲットを絞った活動が必要である、今のマーケティング活動に限界を感じている、営業への貢献度をさらに高めたい、などを考えた結果、ABMに行き着いているのであれば、それを定量的、定性的に示すことで理解が得られるでしょう。そこに、ABMの定義や目的、どういった指標で効果測定を行っていくかを示すことができれば、営業や経営層からの合意も得やすくなるでしょう。

ABMの主なメリットは以下のようなものがあります。これらが実現できれば、営業を中心に、組織全体としての生産性向上や安定したビジネスにもつながります。

  • 商談・受注単価の向上
  • 受注率の向上
  • LTVの向上
  • 営業との連携向上

ABMの定義を揃える

ABMとはその名の通り、企業を1つのマーケティング対象とし、企業に属するさまざまな役割の方を把握しながら統一したメッセージを届けていくものです。しかしながら、詳細な方法や目的に関しては実はさまざまに定義することができます。まずは以下の点をとりまとめ、マーケティングチームとして目指しているものを明確にしながら、他部門の理解を得るために動いていきましょう。期待される結果は、ジャーニーフェーズによってもさまざまですが、多くの場合は以下のようなもので測ることができるでしょう。

  • 期待される結果
  • これまでのアプローチとの相違点
  • ステークホルダーの期待
  • プログラムの目的

成果を証明する

成果を出すうえでは、主に2つの観点から成果が出ていることを明らかにしましょう。まずは、過去の結果と比較して成果の向上が目に見えているかという観点です。必ずしも常に成果が上がり続けている必要はありませんが、一定の期間でみたときには安定して成果が高まっていることを証明したいものです。それができなければ、施策を見直すか、そもそもABMの取り組みを続けるかどうかを考える必要が出てきます。

ROIがすぐに見合うものになるのは現実的には難しいですが、一定の期間で成果が出始めていることや、どれくらいの期間でROIが見込まれ、それまでの投資を回収できるかということを考えておく必要があります。

そして、もう1つ大切なのは、ABMは全ての顧客を対象にするのではなく、高い売上やLTVが見込める企業群をターゲットにすることであり、このターゲット像が営業とずれてしまっていれば、決して成果にはつながらないということです。そういう意味では、営業チームの声をしっかりと取り入れ、どんな企業ターゲットにするか、どんな訴求をしていくかをしっかりと合意していく必要があります。

ABMの合意を取るための具体的な戦略策定ステップ

ここからは、ABMの合意を取るための戦略策定ステップを紹介します。

  1. 社内のチャンピオンを見つけ、説得する
    新たな取り組みを進めるうえで、社内のチャンピオンは誰でしょうか?CFOになることもあれば、COOになることもあります。ビジネス側の責任者の場合もあるでしょう。特にCMOがいない組織であれば、社内で誰が意思決定に大きな力を持っており、かつ協力的かを把握し、ABMの重要性を伝える必要があります。

    また同時に、1人でABMの取り組みを提起するだけでは力が不十分な場合があります。他部門で前向きに捉えてくれている人を見つけ、後押ししてもらうことも大切です。後押しには数も大事ですが、データ面での裏付けを提供してくれる人や社内調整に長けている人など、さまざまな力を持った人を探しましょう。

    また、リーダーシップにとっては、マーケティング戦略の変更は問題ではなく、ビジネス上のどのような課題を解決し、ビジネス上の成果にどうつながるかが重要です。チャンピオンはそれぞれに意思決定に重要な考え方を持っています。その人にあわせたメッセージを作り、理解を得やすい形にしましょう。
  1. ABMを成功させるための共同のSLA構築
    ABMは営業とマーケティングの協力が不可欠です。異なる2つの部門が協力して動くことはABMプログラムにおいて最も難しいところではありますが、考え方を変えれば2つのチームが協力するということはマーケティングを成功させる上で最大のメリットでもあります。部門間で軋轢が生じるのは、互いの期待値が不明確な場合です。この問題を回避するために、アカウントベースの営業活動を行う上での各部門の主な責任を明確にまとめたドキュメントを作成する必要があります。
    ドキュメントに盛り込むべき事項は以下です。このドキュメントは、時間の経過とともに見直す必要があるかもしれません。とはいえ、マーケティングと営業の真の協力関係を確立するための重要な最初の一歩です。
  • 各チームはどのような成果に責任を持ち、どういったスケジュールで成果を出すか
  • マーケティングチームのKPIと営業チームのKPIの設定
  • 営業チームはリードが引き渡される前のフェーズで、ABMにどう協力するか
  • マーケティングチームが営業チームのABMの遂行をどのように支援するか
  • ABMが成功した場合、営業チームはマーケティングチームをどのように評価するか
  1. ABMのための理想的な顧客の特定
    ABM戦略の成功は、優良顧客を見極められるかどうかにかかっています。営業チームは顧客との直接に関わってきた経験が豊富なため、この議論の中で貢献できることがたくさんあります。ABMチームは、理想のバイヤーペルソナを一緒にブレインストーミングすることが大切です。営業担当者には、バイヤーや既存顧客に関する知見を提供するよう促しましょう。
    ここで重要なのは、単に受注できそうな顧客を特定するだけでなく、高い売上に貢献しそうな顧客、長期的に継続しそうな顧客を特定することです。ABMチームがターゲット企業を抽出したら、そのリストを営業チームと一緒に検討する必要があります。マーケティングチームは、ターゲットアカウントリストをすぐに固めず、フィードバックをもとに柔軟に変更することが重要です。
  1. ABMにとって効果的なコンテンツの選択
    アカウントベースセールスの成功は、適切なタイミングで適切なコンテンツを見込み客に提供することにかかっています(インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングの両方で)。マーケティングチームは、ファネルの初期段階におけるコンテンツの制作と配信に主な責任を負うべきですが、それを単独で行うべきではありません。営業担当者は、どのようなコンテンツがジャーニーのさまざまな段階で購買者の共感を得られるか、直接経験しています。営業担当者は、ターゲットとするアカウントのマーケティング戦略について、常にフィードバックを提供すべきです。

    マーケティングが実際にコンテンツを作成する前に、営業はマーケティングチームをサポートし、さまざまなタイプのリードに対してバイヤーペルソナ(さらには「サブバイヤーペルソナ」)を定義する必要があります。CEBによると、B2Bの取引が成立するまでに、平均6.8人が決裁に関わります。つまり、意思決定者を把握するだけでは不十分なのです。むしろ、意思決定者と、意思決定プロセスの一端を担っている周囲のインフルエンサーを把握する必要があります。営業チームは、実施前にコンテンツをレビューし、購買意思決定者の一人ひとりに響くものであることを確認する必要があります。最後に、コンテンツが常に更新され、適切であることを保証するために、営業チームがバイヤーとのタッチポイントから得た洞察を一貫して共有するためのSLAを設定することを検討してください。 
  1. ABMを前提にしたリードスコアリングの最適化
    リードをマーケティングから営業に渡すタイミングを見極めるには、機能的なリードスコアリングシステムが必要です。営業チームは、現在のリードスコアリングシステムが実際にどの程度機能しているかを評価する必要があります: 彼らは質の高いリードを獲得していますか?

    さらに、アカウントベースの営業戦略に対応するために、リードスコアリングシステムを変更する必要があるかもしれません。営業とマーケティングは、ターゲットとするアカウントをスコアリングする最適な方法を決定する必要があります。これは、既存のリードスコアリングシステムとは異なるかもしれません。例えば、カスタマイズされたビデオやソーシャルメディアメッセージへの反応をどの程度重視するかなどです。買い手の意図シグナルを測定するシステムを設定します。ここでは、いくつかの買い手の意図シグナルを紹介します。各シグナルにポイントを割り当てることを検討してください。どのシグナルが最も価値があるかは、購入までにどのような頻度で出現したかによって判断することができます。
  • メールの開封
  • メール内のリンクをクリックディスプレイ広告をクリック
  • コンテンツをダウンロード
  • メールに返信
  • フォームに入力
  1. ABMのROIの測定と改善
    ABMはより個別化されたマーケティングアプローチであるため、必ずしも同じ指標で成功を測ることはできません。ABMの測定基準は、純粋なリード量を測定するのではなく、コンテンツがターゲットアカウントとのエンゲージメントをどれだけ生み出しているかを評価する必要があります。アクティビティ(見込み客がコンテンツにエンゲージしているか)と成果(ターゲットとした見込み客が購入者になったか)の両方を測定する必要があります。

    ABMのために追跡する指標を特定し、営業とマーケティングの両方がこれらの指標に簡単にアクセスできるようにします。時間をかけて、このデータを使って戦略の微調整を行いましょう。マーケティングチームと営業チームの足並みをそろえ、アカウントベースドセリングの体制を整えるために最も重要なことの1つは、成功の指標を決めることです。

まとめ

ABMを実践するためには、組織全体を巻き込み、ビジネス戦略と合致することを証明しながら進める必要があります。目的や見込まれる成果を示しながら、それが達成されていることを都度証明しながら進めていくことで、成功に向けて社内からの支援を受けて進めることができるでしょう。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。