PLG(プロダクトレッドグロース)とその成功例
July 19, 2023
PLG(プロダクトレッドグロース)とは?
BtoBであれば、一昔前までは常に営業・マーケティング主導の収益プロセスでした。
しかし昨今の購買行動の変化により営業担当者との会話を望むバイヤーは年々少なくなっており、2015年のForresterのレポートによると、現在BtoBバイヤーの約75%が、営業担当者ではなくアプリやウェブサイトを通じて購入したいと回答しています。
また、BroBにおいてはこれまでCIOなどの権限を持った役職者がツールの選定や導入を管理していましたが、その流れがエンドユーザーに流れている今、個々のユーザーにアプローチする必要が高まっています。
つまり、営業・マーケティング主導でビジネス成長する時代から、プロダクト主導で成長する時代へと大きくシフトしているのです。
業界やプロダクトの種類によってはPLGを当てはめることが難しいケースもありますが、ZOOM、Slack、Spotifyなど急速な成功を収めているSaaS企業の多くがプロダクトレッドグロース(Product-Led Growth:以下PLG)をビジネス戦略に取り入れています。
PLGとは、営業担当者が主導してプロダクトを売るというビジネス手法とは対極に位置するもので、顧客の獲得からスケール、コンバージョン、リテンションのすべてを、主にプロダクトそのものによって推進する手法であり、「優れたユーザー体験の提供を通じて成長を実現する」というコンセプトの元、セルフサービス型プロダクトを通じたマーケティング〜セールス〜アフターセールスのプロセスにおいてユーザーの満足度を高めることを目的としています。
一方で、営業チームを重要視しないというわけではありません。例えば大企業と取引しなければならない場合、新規導入の疑念払拭や購買の意思決定を促すために営業担当も用いるケースも多く見られます。
せルフサービス型プロダクトとしてPLGを実現するためには優れたユーザーオンボーディング体験を提供する必要もあります。図が示すように、営業・マーケティングとカスタマーサクセス・エンジニアリング・デザインといったそれぞれ異なる部門が、PLGという手法を通じて一つになり強固なユーザーエクスペリエンスを作り出していくことをイメージするとわかりやすいでしょう。
2022年のProductLedが600を超えるSaaSビジネスに対して行った調査ではなんと91%がPLGへの投資を増加すると答えたほど、多くの企業の注力ポイントになっています。
PLGを取り入れようとする企業の多くがフリートライアル、もしくはフリーミアムモデルの導入から手をつけますが、同調査ではウェブサイトからフリートライアル、そしてフリーミアムへのコンバージョンに大きな差が出ています。
ウェブサイトからフリートライアルのコンバージョン率(中央値)は5%である一方、ウェブサイトからフリーミアムモデルへのコンバージョン率(中央値)は12%という結果になりました。
ユーザー視点で考えるとフリーミアムモデルの方が障壁が低く登録しやすいですよね。
一方で、これらの無料アカウント(トライアル・フリーミアム)から有料ユーザーのコンバージョン率(中央値)はどちらも9%と共通しています。
どちらのアプローチでPLGの第一歩を踏み出すかは、自社製品がどれほどPLGに適応した作りになっているか、そしてどんなユーザーデータをもとにプロダクトデベロップメントを進めたいかに掛かっているといえるでしょう。
PLG(プロダクトレッドグロース)の成功例
では実際にPLGを取り入れ成長した企業をいくつかご紹介しましょう。
Koan
アライメントソフトウェアのKoanはパンデミック後にセールスレッドグロースからPLGに切り替えた企業として有名です。
2020年当時、アライメントソフトウェアの市場は飽和状態にありました。巨額の資金を調達し巨大な営業チームと膨大なマーケティング費用を投じていた競合他社とリソースで真っ向勝負することは難しいと判断した同社は、自分たちの強みを生かす全く別の戦略を実行する必要がありました。自社のパフォーマンスデータから、新規ユーザーがReflection(ユーザーが記入する週次アップデート)を記入すると、92%の確率でリピーターになっていることを発見した同社は、プロダクトの強みを最大限に活かすことができるPLG戦略に切り替えました。
Slack
Slackはユーザー課題を解決するオンボーディングを備えたセルフサービス型のプロダクトであり、わずか5年で評価額70億ドルに到達したSlackはまさにPLG企業の代表格です。
一方でSlackは営業を介したプロセスも軽視していません。顧客になり得る大小さまざまな企業を認識し、フリーミアムや無料トライアルを提供して自走を促しつつ、営業チームによるアプローチも行っているのです。プロダクトがリードするPLG企業であっても他の戦略と組み合わせながら進めることも重要です。
HubSpot
Hubspotもまた、素晴らしいオンボーディングで成功をしています。ユーザーエクスペリエンス、カスタマーサポート、そしてカスタマージャーニー全体の改善に注力することで現在、評価額は175億6000万ドルにまで上り詰めました。同社のPLG戦略の成功の鍵は、優れたオンボーディングシステムとクレジットカード情報を必要としない無料プランの提供です。無料プランでは、以下の機能を備えたCRMにアクセスすることができるようになっており、使用できるCRMの種類に制限はありません。
- コンタクト管理(サイトアクティビティとディールトラッキング)
- 製品マーケティングツール(ランディングページ、Eメールマーケティング)(無料
- セールスレップツール(ライブチャットと基本ボット)
- サービスツール(チケッティング、共有インボックス)
- 運用ツール(データ同期、デフォルトフィールドマッピング)
無料プランのままだと保存できるコンタクトが100件までと上限が設けられています。そのためユーザーがプロダクトの良さを理解し活用の幅を広げたい場合は、有料プランに変更する必要があります。特にCRMのような一度使い始めると別製品に移行する工数が多くかかる製品ではリテンションが高まる傾向にあります。無料でHubspotの機能をフル活用させる戦略こそ、リテンションを高める優れたPLG戦略なのです。
Dropbox
プロダクトレッドをエンドユーザーのマインドセットと一致させた成功例がDropboxです。Dropboxが競合と異なるのは、バイラル性を高めるためにプロダクトを利用している点です。Dropboxアプリを使ったファイルの共有はとても簡単で、無料ですべてのユーザーがアクセスできます。ストレージが足りなくなると同僚や友人に紹介ページを共有するように求められ、これによって新規顧客を獲得するだけでなく、既存顧客のプロダクトエンゲージメントを高めることにも繋がっています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。まずは自社のプロダクトがPLG戦略に適しているかどうかを判断する必要があります。自社サービスがセルフサービス型であり、ユーザー課題の解決方法を明確に理解できている状態であれば、早速PLG戦略を実践することをおすすめします。実践の中でバイラル性が期待できるプロダクトであればなお、PLGモデルに適していると言えるでしょう。
その上で優れたユーザーオンボーディングの構築は欠かせません。顧客にとって分かりやすくストレスが少ないプロセスで優れたユーザーエクスペリエンスを提供して、顧客満足度を高めましょう。