GTM戦略の考え方

March 18, 2024

GTM(Go-To-Market)戦略とは、企業が市場に存在するターゲット顧客にどのようにアプローチし、競争優位を得てシェアを拡大していくかという計画です。GTM戦略を作成する意味は、価格や流通などの要素を考慮に入れながら、製品やサービスを最終顧客に提供するための計画を示すことです。GTM戦略は事業計画と近しい部分もありますが、後者の方が資金調達などを含んだより広い範囲のことを指すことが多いです。

企業は立案したGTM戦略をさまざまな場面で活用することができ、それは新製品や新サービスの発売、既存製品の新市場への投入、企業やブランドのリニューアルなど、多岐にわたります。また、製品やサービスが「誰の」「どんな課題」を解決するのかを明確に打ち出し、顧客との関わりを深め、製品やサービスの購入を促すプラン作りにも役立ちます。

GTM戦略の目的

GTM戦略は製品やサービスの市場での成功が目的ではありますが、足元のビジネスを進めていく上での目的は、すべてのステークホルダーの足並みをそろえ、定められたマイルストーンと目標を達成できるようにスケジュールを設定し、達成可能な目標への道筋を作ることです。

一般的には、GTM戦略の策定を通じて、以下のようなことを目指しています。

  • すべてのステークホルダーに対する、明確に定義された計画と方向性
  • 製品・サービスの市場投入までのリードタイムの短縮
  • 製品・サービスローンチの成功確率の向上
  • 製品・サービスのローンチの失敗とそれに伴う余分なコスト発生の可能性低減
  • 市場の変化や顧客の要望への対応能力の向上
  • 課題に対するマネジメント能力の向上
  • 着実な成長までの方針立て
  • 望ましい顧客体験の設計
  • 規制遵守の担保

GTM戦略は、製品・サービスのローンチに関連して作られることが多いですが、既存製品・サービスのさらなる成長や、顧客へのメッセージングとリーチの強化に向けて企業が取るべき具体的なステップを説明するために使用することもできます。

効果的なGTM戦略を作成するためには、ビジネスを取り巻く環境とターゲット市場を深く理解する必要があります。新規および既存のビジネスプロセスを明確に定義し、GTM戦略を管理できる仕組みを確立する必要があります。

GTM戦略に含まれる要素

GTM戦略には、次の5つの要素が含まれます。

1. 市場の定義: どの市場をターゲットに製品・サービスを販売するか

市場を定義することとは、製品・サービスが対象とする特定の市場、つまり製品・サービスの価値を理解し、金銭を支払う意思と能力を持つ人々のグループを特定することと言えます。市場は具体的かつ明確に定義されている必要がありますが、同時に、その製品やサービスの収益目標を達成するのに十分な規模の人々を含むものでなければなりません。複数の市場をターゲットにする場合はそのうちのひとつを優先し、この主要ターゲットを明確に打ち出す必要があります。

2. 顧客: ターゲット市場の中で、誰をターゲットにするか

顧客の定義の段階では、市場を定義するために収集した情報とリサーチを活用しながら製品やサービスの具体性を高め、ターゲットとなる顧客を決定します。 企業は、見込み客となり得る既存顧客がいるのか、それともまったく新しいターゲット顧客を探す必要があるのかを判断する必要があります。また、GTM戦略を策定し、顧客獲得プロセスを改善する企業は、どんな人が買い手となりえるかも重視すべきです。BtoBビジネスのGTM戦略では、買い手はIT部門のマネージャー、LOB(ライン・オブ・ビジネス)のマネージャー、あるいは役員層かもしれません。

3. 流通モデル: 製品やサービスをどのように顧客に届けるか

次に、流通モデルの策定では製品やサービスが最終顧客に到達するまでのチャネルや経路を定義します。直接販売は比較的シンプルに販売できますが、多くの場合、間接チャネルをGTM戦略の一部に組み込むことが一般的です。間接的な流通チャネルは、メーカーと最終顧客の間に追加のステップが挟まれることになります。例えば、製品が小売店で販売される前に、メーカーから流通業者、卸売業者を経由することがあります。

4.メッセージングとポジショニング:何を提供しているのか、他の製品やサービスと比較して、独自の価値や差別化ポイントは何か

製品メッセージとポジショニングの要素には、製品またはサービスが何であるか、それが何をするものであるか、ターゲット顧客にどのように製品を知ってもらうか、現在の顧客ベースと定義された市場の両方からどのようにリードを獲得するかを定義することが含まれます。プロダクトメッセージは、その製品・サービスが市場内の特定のニーズにどのように対応しているのか、そしてなぜ顧客がそのニーズを満たすと信じるべきなのかについて答えるものでなければなりません。バリュープロポジションは、顧客が製品・サービスから、支払った金銭的価値や追加コスト以上のものをどのように受け取るかを明らかにするものでなければなりません。また、製品やサービスは、それがユニークな価値を提供することを保証するために、市場の他の製品・サービスと差別化されていることが必要です。

5.価格:顧客グループごとの製品・サービスの価格設定

最後の要素である価格ですが、製品やサービスの製造や開発のコストに基づいて設定されるべきではありません。その代わりに、製品やサービスによってもたらされる価値や、市場での立ち位置から導き出されるものでなければなりません。

GTM戦略立案の手順

次に、製品・サービスの市場への浸透を考えていきましょう。この時点でGTM戦略を通して成し遂げたいことには、以下のようなものがあります。

  • 製品・サービスの認知度向上
  • リードの創出と顧客への転換
  • 新規市場への参入、顧客エンゲージメントの向上、競争力強化による市場シェアの最大化
  • 競合企業からの市場シェア維持
  • ブランド・ポジショニングの強化
  • コスト削減と利益の最大化

これらを達成するための効果的なGTM戦略には以下の項目が含まれます。

  • 顧客ペルソナの設定
  • バイヤージャーニーの理解
  • バリューマトリックスの作成
  • マーケティング戦略の作成
  • 営業戦略の作成
  • サポートとの連携
  • 長期的なロードマップの中での現状の立ち位置の把握
  • 成功指標の定義
  • 継続的な予算と必要なリソースの把握

先ほど紹介した5つの要素を考慮に入れながら、それぞれの項目について紹介していきます。

顧客ペルソナの特定 

GTM戦略の最初のステップは、顧客ペルソナを特定することです。このプロセスでは、ターゲットとなる市場と顧客基盤を設定します。そのうえで、ターゲット顧客の理解を通じてどのようにアプローチすればいいかを考え、集めた情報を活用しながら長期的な目標を達成するための方向性を考えます。

バリューマトリックスの作成 

次に、さまざまなビジネスニーズに製品やサービスがどのように役立つかを照らし合わせ、それぞれのニーズに対する訴求の成功の基準を定義したバリューマトリックスを作成します。バリューマトリックスは、すべてのステークホルダーに製品やサービスの目的と意義を伝えるために使用されますが、その中には各機能またはプロセスによって満たされる特定の顧客ニーズも含まれます。

マーケティング戦略の策定

マーケティング戦略を策定する際、企業は市場内で製品やサービスを位置づけ、ターゲット市場での認知度を向上させる計画を立てます。このステップには、さまざまなマーケティング・プラットフォームで、ターゲットとするオーディエンスに対してさまざまな広告手法をテストすることも含まれます。マーケティング戦略には以下のようなものが含まれます。

  • ブランディング
  • リードジェネレーション
  • コンテンツの拡充
  • マーケティング用のWebサイト制作

バイヤージャーニーの理解 

マーケティング戦略を立てた後、企業はバイヤージャーニーを理解する必要があります。バイヤージャーニーとは、購買担当者が最終的に製品やサービスを購入するまでのプロセスを指します。バイヤージャーニーは、認知段階、検討段階、意思決定段階から構成されます。企業は、組織と個人の両方の視点から、購買プロセスを通じて辿る可能性のあるジャーニーを特定する必要があります。

営業戦略の策定

このステップでは、製品やサービスを市場に浸透させるための計画を立てます。営業プロセスに含めるべき要素には、以下のようなものがあります。

トレーニングのサポート:営業チームが自信を持って製品やサービスを販売できるよう、十分な知識を身につけるためのトレーニングの提供

ツールとリソース:営業チームが見込み客を見つけ、関係を構築し、販売するために必要なあらゆるリソースの確保

顧客獲得:顧客を見つけるための最適なアプローチの発見

サポートとの連携

次に、組織は営業チームとサポートチームが連携し、質問や問題が発生している顧客にどのような支援を提供するかを決める必要があります。このステップでは、以下を決定します。

  • CRMなど、顧客との関係を構築し管理するために必要なツールの選定
  • ユーザーが製品やサービスの使い方を理解するためのあらゆるオンボーディングとサポートのプロセス
  • 顧客が製品・サービスを長く愛してくれるようにするためのリテンション戦略
  • 満足度を測定し、製品や関連サポートが成功しているかどうかを判断する方法

ロードマップ全体における製品・サービスの位置づけ

このステップでは、社内の製品・サービス間の優先順位を決定します。社内のリソースをどれくらい確保するかという観点では、特定の製品・サービスが市場にリリースされた後も継続的な対応が必要なのか、あるいはチームは新しいプロジェクトに移行するのかを判断することも含まれます。特定の製品・サービスが企業のロードマップに正しく位置づけられているかどうかは、開発チームにとっての優先順位、市場からのフィードバックの扱い方、ステークホルダーがプロジェクトに関心を持ち続けているかどうかなどから判断します。

成功指標の定義

このステップでは、組織は製品やサービスの主な目的を明確にし、その成功をどのように測定するかを定義する必要があります。成功の測定に使用される測定基準は、意味があり、測定可能で、モチベーションを高め、追跡しやすいものでなければなりません。

継続的な予算とリソースのニーズの決定

ここまでのステップがすべて完了したら、製品やサービスが市場に投入された後も継続的に必要となる予算やリソースを把握する必要があります。これには、製品やサービスのメンテナンスにかかる時間や費用、利害関係者の日々の活動に影響を与えるその他の要因も含まれます。

まとめ

製品やサービスを安定的に成長させていくためには、全体の成長ロードマップともいえるGTM戦略が必要不可欠です。GTM戦略はマーケティングの要素にとどまらず、営業やサポートなどビジネスサイドのあらゆる要素が関わってくる非常に大きな話ではありますが、長期的に組織が同じ方向を向き、成長を推進していく上では非常に重要なものです。

これから新規事業に携わる、既存事業の立て直しを図るなど、大きなチャレンジに取り組む方はぜひGTM戦略を策定してみていただきたいですし、海外では毎年GTM戦略をアップデートして浸透させることが一般的になっているため、GTM戦略に基づく年間計画を立てることにも挑戦してみてください。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインターン終了後、渡米。シリコンバレーのEd Tech企業、Courseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)と、レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

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