マーケティングデータマネジメントを適切に進めるための方法

October 3, 2023

顧客データを適切かつ正確に整理することはDMやメールマーケティングなど、B2Bマーケティングの施策を実施する上で非常に重要です。特に従業員の退職や昇進、他部署への異動など、さまざまな変化が頻繁におこる大企業では、データの正確性がROIと成功を決定づけると言っても過言ではありません。また、オフィスが移転したり閉鎖したりすることもあるでしょう。

B2Bのデータを維持する上では古いデータが更新されずに残ってしまったり、項目にばらつきが出てしまったりしてマーケティング活動の成果が出なくなる可能性があります。これを可能な限り回避するため、この記事ではB2Bマーケティングにおいて顧客データベースを誰が、どのように管理すると最適なのか、実際にどのようにデータを整理するべきかを考えてみましょう。

誰がデータマネジメントを担当するべきか?

最初のステップとして、データマネジメントを担当するチームについて考えます。主担当はどんな役割の人で、どの部門に属するのか?誰にレポーティングするのか?このあたりを明確にします。

データマネジメントにまつわる組織構造については、すべての企業に適した汎用的な形はありません。現在の社内体制、Go-to-Marketモデル、蓄積されているデータや分析できるレベル、技術的な状況(人と技術の両方)、全体的な企業文化などが、自社に最適なチーム編成を決定する上で影響します。

組織体制を決めたら次にどのようにデータを整備するかを考えます。どのようなツールを導入しデータを蓄積・管理していくのか、そしてそれぞれのツールの管理者を誰にするのかなどを考える必要があります。顧客データはSFAやMA、その他のコミュニケーションツール、はたまたCSVファイルなどに散在してしまうため、1つのツールで完結させるのではなく、複数のツールを連携して管理できるようにすることが望ましいです。

データマネジメントのシステムについても、組織と同様にすべてのビジネスに適した完璧なものがあるわけではありません。社内体制、Go-to-Marketモデル、蓄積されているデータや分析できるレベル、技術的な状況(人と技術の両方)、そして全体的な企業文化などを考慮した上で判断されるものです。しかし、どんなビジネスでも考えるべき3つの重要なポイントがあります

1. 中央集権型か、分散管理か

収集されるデータは、特定のシステムで集中管理して各部門に共有することも、事業ごとに分散して管理することも、両方考えられます。どちらも長所と短所がありますが、分散型にする場合でも、ガバナンスとデータ構造は統一したルールで管理し、分散したチームをサポートする役割が必要です。中央集権の場合、ガバナンスとデータ構造を一元化することでデータから最大の価値を引き出すことができ、また、部署間のコンフリクトや対立のリスクを軽減することができます。一方で中央集権では柔軟性が低いため、事業を複数持っていたり、複数地域でビジネスを展開している場合は運用の障壁となるケースも見受けられます。

同様に、分散管理では柔軟性こそあるものの、各事業部や地域でデータ管理の方法や収集項目が違うと一元管理やデータの比較ができないというデメリットもあります。中央集権を取るか、分散管理を取るかは永遠のトピックですが、適切な運用モデルは事業規模やフェーズによって異なります。一度運用方針を決めても、定期的にデータマネジメントモデルが自社に適しているか確認することが重要です。

2. 内製か、外注か

多くの組織で内製と外注のリソースをうまく使い分けながらデータを管理していますが、どちらに比重を置くかは個々の企業文化に依存します。データ人材を市場で見つけ採用することは非常に難しいですが、社内に確保することができれば大変重要な人材となりえます。すべてをアウトソーシングすると、長期的に見てコストが高くなり、社内で管理ができなくなってしまう可能性があります。

3. 誰がオーナーシップを持つか

データマネジメントの管轄は情報システム部門でしょうか。それとも事業部側か、はたまた独立した組織を作るのがよいのでしょうか?

グローバル企業の多くでは、MOpsにマーケティングのデータマネジメントを一任しています。デジタルチームや戦略チームにオーナーシップが渡ることもありますが、実務的にはMOpsマネージャーと連携するケースが多いでしょう。しかし、どこにオーナーシップを置くかに関係なく、データを効果的に活用できるようにするためには、担当チームが社内で一定の権限を持つこと、そしてCxOレベルの役職者と連携できることが欠かせません。

プロジェクトに巻き込むべきステークホルダー

次に決めるべきことは、プロジェクトに巻き込むべきステークホルダーです。これは、マーケティングデータマネジメントシステムを導入し運用を安定させるという点と、主な利用ユーザーが誰かという点の2つの側面から考えることをおすすめします。効果的なマーケティングデータモデルを作り上げる上ではあらゆるステークホルダーから意見を集め、彼らのニーズを理解するが重要なため、単独で進めることは避けたいところです。

また、できるだけ早く社内のチャンピオンを作ることも重要です。最も有効なのはCxOレベルの存在ですが、新システムからメリットを得られる他のチームのリーダーでもよいでしょう。プロジェクトを効率的に進めるためにも、早い段階で彼らを参加させることはメリットがあります。ステークホルダーは社内だけに存在するわけではありません。データマネジメント方法やガバナンスを変えると外部パートナーやステークホルダーにも影響を与えることになります。代理店などを利用しているのであれば、これも考慮する必要があります。以下に一般的なステークホルダーの対象部門をリストアップしました。

社内関係者

  • CxO(スポンサーシップとサポートのため)
  • 事業部リーダー(方向性と目的を伝える)
  • 主な利用ユーザー(現場の声を集める)
  • 情報システム部門

社外関係者

  • 代理店
  • 主要パートナー(Go-To-Market戦略に関わる企業)
  • テクノロジーベンダー
  • 戦略コンサルティング企業

マーケティングデータベースの整理

マーケティングデータベースを構築したら次のタスクはデータベースの整理です。マーケティングデータはあらゆるタッチポイントで取得されるため、リードの重複が起きたり、不正確なリードや古いリードをアップデートしないとドメインの評価が下がる理由にもなってしまいます。昨今ではドメインの評価が下がるとメールが迷惑メールフォルダへ振り分けられたり届きづらくなるため、この管理が大変重要になっているのです。また、MAなどのツールでは、多くの場合リード数ベースの課金となるため、不必要なリードを残し続けることは予算的な意味でも得策ではありません。

データベースから以下の条件に合致するリードを洗い出し削除することで、データベースのボリュームを削減しつつ、正確なデータベースを維持します。しかし前提条件として、SFAで直近のアクティビティがないこと、進行中の商談に関連していないこと、営業担当が現在進行形でアプローチしていないことを確認します。仮にSFA上に電話番号と名前しかない人でも、営業担当にとっては価値がある可能性があるので要注意です。

  • メールがハードバウンスしているリード(ソフトバウンスの場合は、受信ボックスが満杯だったり一時的に不在にしているだけの可能性があります)
  • メールアドレスがないリード
  • 所属部門、業界、地域などが販売対象外のリード。事業撤退などで特定の業界へのアプローチが不要になった場合などが当てはまります。
  • ターゲット業界の現場担当者や別部門の担当者情報には注意が必要です(例えば、システム部門やマーケティング向けの商材であったとしても、社内異動の可能性もあるため、削除するべきか否かは評価する必要があります。
  • 同様に、国内向けの商品のマーケティングであっても、他国からリモートで働いている可能性も否めないため、慎重な判断が必要です。
  • 社内の社員情報(会社のドメインが自社の人)。社員のデータはどうしても紛れ込んでしまい、かつ複数のアドレスで増えていく傾向にあります。定期的に確認し削除します。

削除対象のリード

以下の条件に当てはまるリードは整理の際に削除対象になります。しかし、上記の条件よりもさらに注意深く確認する必要があり、社内で本当に削除してもいいか確認したり、交渉したりすることも必要になるかもしれません。

  • 不適格と判別された古いリード(X年など、「古い」の定義づけが必要)
  • 不適格と判別された理由が明確で、アプローチに値しないリード(競合他社ドメインや.eduの学生ドメインなど、アプローチ対象ではないリード)
  • 重複リード(重複しているどちらのリードをマスターリードとして残すかを決める必要あり)
  • marketing@やsales@など、グループアドレスだと思わしきメールアドレスのリード
  • 古い購入リストに含まれていた非アクティブなリード
  • 既存取引先や商談に関連付けられていない、古いコンタクト 
  • 過去18ヶ月間、メールを開封していないリード

これらのそれぞれの条件に当てはまるリードを抽出し、数字の推移を把握することをおすすめします。SFAとMAのリード情報のカスタムシンク機能を使って、能動的に行動している一部のリードだけをMAに取り込むことも可能です。 しかし、カスタムシンクはメンテナンスが大変で、気をつけないと重複リードが大量に発生する可能性があるため、注意が必要です。

配信停止リードをデータベースから削除するべきか

欧米では個人情報の規制が進んでいます。米国のCAN-SPAM法のもとでは、配信停止リストに手を加えてはいけないとされており、ある人が配信停止リストに追加されれば、その人は将来的にずっと配信停止となるべきです。しかし、配信停止リストを削除した後に、その連絡先が登録されている新たなリストなどを購入した場合、再度メールを送信してしまうような事態にもなりかねず、ドメインの評価が危険にさらされることになります。Adobe Marketo EngageのようなMAやデータベースには「永続的な配信停止」という機能があり、データベースにリードとしては存在していないものの、実際にはインスタンスの中で配信停止の記録を保持しているので、二度と配信対象とはならないように扱われます。このような機能を活用し運用することが必要でしょう。

まとめ

マーケティングに限らず、顧客データはプライバシーの観点からも、営業・マーケティング活動の観点からも非常に重要なものですが、情報システム部門やコーポレート部門からすれば守りの、一方で営業・マーケティング部門からすれば攻めの活用が求められます。可能な限り顧客データを扱う専門のチームを設け、さまざまなステークホルダーと連携しながらデータを管理していきましょう。そして、データベースを構築できれば、どのようなデータマネジメントが最適なのかを考えながら進めるようにしましょう。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインターン終了後、渡米。シリコンバレーのEd Tech企業、Courseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(MarkeZine BOOKS)と、レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識(MarkeZine BOOKS)がある。

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