近年海外を中心にB2Bマーケティングの新たな取り組みとして購買グループマーケティング(Buyer Group Marketing)の概念が注目されています。この記事では、購買グループマーケティングを実践するための、4つのステップを紹介します。
B2Bマーケティングではマーケティングの対象として、リード(個人)単位のマーケティングと、企業(アカウント)単位のマーケティング、つまりABMの2種類が語られることが多いです。
リード単位のマーケティングでは施策の対象を明確にしやすく、効果測定を行いやすいというメリットがある一方で、B2Bビジネスの肝である決裁権者への影響度合いという観点では限定的です。というのも企業の購買に関する意思決定は、通常、個人で行われるのではなく、異なる役割や考えを持ち、意思決定プロセスへの関わり方も異なる複数名の購買グループによって行われるからです。
しかし、多くのB2B企業は、このような現実を踏まえたデマンドジェネレーションを行うことができず、購買グループではなく個人に焦点を当て、ナーチャリングを続けています。その結果、企業はリードジェネレーションを通じた収益機会の最大化とマーケティング投資の最適化を実現できていないことが多いです。
一方、国内で用いられるABMという言葉は企業ターゲティングの文脈が強く、リード獲得の観点ではマーケティングが一定の役割を果たすものの、検討促進の観点では営業が果たす役割が大きいと考えられています。そんな中、近年海外を中心にB2Bマーケティングの新たな取り組みとして購買グループマーケティング(Buyer Group Marketing)の概念が注目されています。この記事では、新たな考え方である購買グループマーケティングを実践するための、4つのステップを紹介します。
まずはリードベースやアカウントベースのマーケティングと同じように、自社が真にターゲットとしたい顧客を定義しましょう。気をつける点としては、業界や企業規模のような表面的な分類にとらわれず、さらにデータを掘り下げて対象者を絞り込むことです。
過去の受注や商談実績、チャンピオンと呼ばれるLTVの高い企業などのデータを通じて、製品・サービスを最も必要とし、売上に高く寄与する企業についてどのようなことがわかるでしょうか。既存顧客や過去の顧客で、さらに売上を伸ばせる可能性があるのはどのような企業でしょうか。
マーケティングと営業の両部門が協力して理想的な商談のイメージを共有し、そのニーズに応じた施策やメッセージを作成するために必要な要素をできるだけ詳しく調べましょう。
理想的なターゲット顧客像を理解できれば、次に、その企業の中で購買の意思決定を行う購買グループのイメージを明確にしましょう。SiriusDecisionsの調査によると、購買グループには5つの役割の人が関与していると言われています。
チャンピオンは購買プロセス全体に関与し、マネージャーリーダークラスであることが多いです。組織の戦略と実務の両方を深く理解しており、部門が担当する業務の効率化と生産性向上に関心を持っています。
インフルエンサーは専門的な知識や独自の視点が必要なときに登場します。購買プロセスの中でどのような専門知識が求められるかを考え、提案を評価する上で役に立ち、味方になってもらうためのコンテンツを提供するようにしましょう。
意思決定者は、多くの場合、検討するソリューションの予算の権限を持つ部署の責任者です。購買グループが意思決定の時期に差し掛かったら、この役割の人と接点を持ち、導入のメリットや見込まれる効果を正しく伝えるようにしましょう。
購買グループがどの時点でユーザーを検討に巻き込んでいるのか、可能な限り情報を集めましょう。一般的に、前向きに進めたいと考えている場合には、購買グループの活動を初期に参加させることが多く、そうでなければ、検討終盤に操作感の確認のためにデモに参加させたりします。
購買プロセスの終盤に加わり、購入の意思決定を行います。他社事例やユースケースなどのコンテンツは、契約書にサインする前の最終的な懸念に対処する上で役に立ちます。購買グループの役割を分類したら、その役割ごとにペルソナを作成します。ペルソナは製品やサービスに接する人々を疑似的に表現したもので、導入の動機や担当領域、抱えている問題、意思決定に影響をもたらすその他の要因について、心理的な面から要約したものである必要があります。
これらの整理には時間がかかりますが、このステップを踏むことで大きなメリットが得られることが証明されています。cintelの調査では、ビジネス目標を上回る企業の70%以上が、ペルソナを作成し、ドキュメントにまとめていることがわかっています。
ステップ2が終われば、施策の実施のための準備はおおむね終わっています。ターゲットとなるオーディエンスは誰か、バイヤージャーニーのそれぞれの場面でどのような役割の人と関わる必要があるか、彼らがどのようなコンテンツを求めているかが理解できているでしょう。このステップでは、セグメントしたターゲットとそれぞれの購買グループに向けたナーチャリングシナリオを設計します。ナーチャリングシナリオは、以下の要素を意識して構築しましょう。
ナーチャリングストリームの設計次第でリードの獲得、セグメンテーション、トラッキングの方法が決まります。どのチャネル、コンテンツタイプで情報を届け、どのタイミングでゲート付コンテンツ(フォーム入力が必要なコンテンツ)を設けることで最もターゲットを絞り込み、効率的で効果的なバイヤージャーニーの進行を実現できるかを検討しましょう。
リードスコアリングとクオリフィケーションモデルは、購買グループに基づくデマンドジェネレーションに沿ったものでなければなりません。リードスコアは、ターゲットオーディエンスとの適合性という点で、その商談がどれだけ価値のあるものであるかだけでなく、1人のメンバーだけでなく、その商談に関わる購買グループ全体に対して、マーケティングプログラムがどの程度エンゲージしているかを確認する必要があります。
理想的な顧客を完全に理解しようと時間をかけることは重要ですが、同時に顧客に向けてどのようなコンテンツを作成するかも検討しなければ、無駄な努力となりかねません。顧客リサーチをする際には、併せてコンテンツリサーチの時間を設けましょう。業界で大きなトレンドとなっているトピックは何か、競合他社はどのようなコンテンツを作っているか、といった洞察をコンテンツ戦略に反映させましょう。同時に、バイヤージャーニーの各ステージでは、買い手が求める情報の種類(教育的なものと製品に特化したものなど)が異なることを念頭に置くようにしてください。
入念に設計されたデマンドジェネレーションキャンペーンは、的確なトラッキングと正しい効果測定なしには成り立ちません。施策を継続し、都度改善していくためにはよりどころとなるものが必要です。そのために、ジャーニーの進行状況と個別キャンペーンレベルの活動に対して洞察を得るために、それぞれパフォーマンス指標を設けましょう。
また、これらの指標のトラッキングをもとに、購買グループを中心としたナーチャリングに改めて焦点を当てると同時に、デマンドジェネレーション施策の全体的なパフォーマンスを評価してください。購買グループのニーズや行動により適した施策にするためには、戦略や戦術のどこに手を加えるべきでしょうか。
最初から成果が出るかどうかはあまり気にする必要はありません。本当の意味で競合への優位性を確立するためには、リード獲得、リードナーチャリング、商談創出といった戦略のあらゆる観点で、デマンドジェネレーションのアプローチを絶えず調整し続ける必要があります。長い道のりですが、顧客と彼らのニーズに焦点を当てることで、重要な最初の一歩を踏み出すことができるのです。
購買グループベースでのマーケティングを実施するためには、購買グループに属するそれぞれの役割のペルソナを定義し、それぞれの役割に合ったコンテンツを準備し、適切なタイミングで情報を届けることが求められます。リードベースのマーケティングよりも難易度が上がることは間違いありませんが、商談金額が高い商材や、検討期間の長い商材では営業の負担を軽減し、大きな成果につながるでしょう。