SaaSにおける無料トライアルリードの扱い方

最終アップデート: 
March 22, 2023

無料トライアルを実施しているSaaS企業の上位27%は、新規ビジネスの25%以上をトライアルから獲得しています。無料トライアルが営業ツールとして有効なのは自明ですがリードから契約に至るまでの課題、ベストプラクティスにはどのようなものがあるのでしょうか?

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営業ツールとしての無料トライアル

Salesforce、Zendesk、LinkedIn、HubSpotなどの有名なB2B SaaS企業はもちろんのこと、TechstarsのSaaS企業41社のうち77%が無料トライアルというオファーを提供しています。無料トライアルは、ソフトセルを可能にする優れた営業ツールなのです。具体的には以下のような利点があります。

  • コンバージョン率を向上させる
    潜在顧客に対してプロダクトがニーズに合っていることを示すことで購買意欲を高く保つことができる。
  • 顧客満足度の向上
    プロダクトが顧客のニーズに合っているか否かを支払いの前に確認することができるため、顧客満足度を保証できる。
  • 買う前に試すことができる
    他の選択肢で迷っている段階でプロダクトを試すチャンスを提供することで潜在顧客の意思決定をサポートできる。
  • プロダクトのアピールになる
    プロダクトの素晴らしさをリアルな体験という形で伝えることで、プロダクトのよさを潜在顧客に伝え、信頼度を高めることができる。

無料トライアルの課題

コンバージョン率の低さ

企業が実施する無料トライアルからのコンバージョン率は、1~15%程度だと言われています。つまり、獲得したリードの85~99%はコンバージョンに至ることなく他に流れているということです。無料トライアルの体験を向上しコンバージョン率を上げることは優先的に取り組むべきでしょう。

カスタマージャーニーの複雑さ

カスタマージャーニーの各ステージにはオーナーがいます。例えば、ウェブサイトトラフィックから新規リードを獲得する責任の所在はマーケティングにあります。一方、無料トライアルには以下の部門が関与しているため責任範囲がとても複雑な構造になっています。

  • マーケティング:トライアルユーザーをコンバージョンに導くキャンペーンを行う。
  • カスタマーサクセス: ツールのオンボーディングから顧客のビジネスをサポートする。
  • セールス:デモ、最適なプランやプロダクトの説明、契約交渉を行う。
  • 製品開発:プロダクトの摩擦を特定し、プロダクトのUXを向上させ、不足している機能を追加または改善する。

トライアルステージでは、関わる全てのチームが重要な役割を担っている一方で個々の影響力は限定的になります。無料トライアルで高いコンバージョン率を継続しビジネス成長している企業では、無料トライアルというステージの責任を取るオーナーを任命しています。

誰がイニシアチブを取るべきか?

ハイボリューム※SaaSビジネスの場合、CMOが主にトライアルコンバージョンを管理します。マーケティングは自主的に登録したリードのコンバージョンに責任を持ち、セールスはエンタープライズリード(大企業からのサインアップ)のコンバージョンに注力します。マーケティングはプロダクトチームと密接に連携し、割引、価格設計、プランをテストしたり、カスタマーサクセスと連携してドリップキャンペーンなどを実施します。SaaS企業では、営業チームとカスタマーサクセスチームが協力してトライアルコンバージョンを管理する傾向があります。欧米ではCRO(最高収益責任者)を置く企業が増えており、CROが無料トライアルの責任をもつ場合も増えています。

※ハイボリューム
iPhoneやMicrosoft Officeなど多数の顧客から大量に使用されるソフトウェアサービス。導入してからは顧客とのタッチポイントが少なく、一般的にはカスタマイズもあまり必要ないもの。

トライアルコンバージョン率を高めるベストプラクティス

1. トライアルに適した「制限」を選択する

トライアルの制限には、主に時間制限と機能制限の2種類があります。時間制限付きトライアルでは、ユーザーは一定期間だけプロダクトの機能全てにアクセスできます。機能制限付きトライアルでは、無料トライアル中にソフトウェアを試すことができるものの、特定の機能については使用できなくなっています。

機能制限付きトライアルの例

  • ユーザーが特定のアクションを実行できる回数の制限
  • アップロード可能なデータ容量の制限
  • 特定の機能へのアクセスを無効にする/制限する
  • ソフトウェアの出力を変更する(例:保存された作品に透かしを入れる)

企業によっては、2種類の制限を組み合わせて、無料トライアルユーザーがアクセスできる機能を制限しながら、時間制限を実施することを選択する場合もあります。

2. 適切な無料トライアル期間を設定する

無料トライアルの期間はプロダクトの複雑さと平均販売価格(ASP)に依存します。

一般的に多いのは30日間の無料トライアルですが、クローズの創設者兼CEOであるSteli Eftiは、close.comのブログで、14日間の無料トライアル期間が99%の企業に適していると述べています。実際に30日間毎日利用するようなSaaSプロダクトは少なく、短い時間の中でもしっかりプロダクトに向き合おうというモチベーションを高める傾向にあるからです。

3. クレジットカード登録を必須にする

TotangoのSaaS Conversions Benchmarkレポートによると、オプトアウトトライアル(クレジットカードが必要なトライアル)から顧客へのコンバージョン率は、オプトイントライアル(カードを必要としないトライアル)よりも平均で約35%高いそうです。しかし、同じTotangoのレポートによると、オプトアウトの無料トライアルの90日間の継続率は、オプトインの無料トライアルより20%低いことがわかっています。

クレジットカード登録は無料トライアル登録のハードルを高くする一方、コンバージョン率は高まります。ただしその後の継続率に課題が残ります。

まずはウェブサイトトラフィックのボリュームを確保して、無料トライアルを獲得しましょう。無料トライアル登録後には顧客のロイヤリティを保つためにユーザーエクスペリエンスとイネーブルメントを強化する取り組みを行いましょう。

4. トライアルユーザーのフォローアップ

SaaSの無料トライアルユーザーの40~60%は最初に登録後、一度もログインしていないというデータがあります。トライアルユーザーと継続的にコミュニケーションをとり、コンバージョンに導くために戦略的なアプローチをとる必要があります。

具体的にはセールスデベロップメントとメールマーケティングの2種類のフォローアップをおすすめします。

セールスデベロップメント

無料トライアルのコンバージョン率を高めるには1対1のセールスコールでユーザーをフォローアップするのが有効的です。SDR(Sales Development Representive - マーケティング部門から引き継いだリードを商談化してフィールドセールスへ引き継ぐ役割を担うインサイトセールス担当)は、電話、ボイスメール、1対1のEメールなど、さまざまなセールスタッチを行い、プロダクトのバリューを繰り返し説明し、購入の潜在的なバリアを予測します。

B2B SaaS企業の多くは販売価格が高かったり、販売サイクルが長い傾向にあります。SDRチームは、無料トライアルリードのモチベーションを高めた状態でセールスアポイントメントを設定することで、セールスサイクルを短縮することに貢献できます。

無料トライアルメールマーケティングキャンペーン

マーケティングチームはSDRチームと協力し、メールマーケティングで無料トライアルユーザーをナーチャリングできます。一般的な無料トライアルフォローアップのメールには以下のようなものがあります。

  • 無料トライアル登録直後のウェルカムメール
  • 使い方のヒントやチュートリアルメール
  • 教育用ウェビナーへの招待
  • トライアル期限切れのリマインダー
  • ユーザーからのフィードバックを求めるメール

メールマーケティング戦略では、ブログやその他の情報コンテンツを活用し、ユーザージャーニー全体をサポートすることにフォーカスする必要があります。自動メール配信プラットフォームでは、条件ロジックとトリガーイベントを使用することでユーザーにいつ何を送るべきかを決定するドリップキャンペーンを設定することができます。自動配信メールは、無料トライアルの利用を継続させ、次のステップに進むよう促すのに非常に効果的です。ユーザーに成功の秘訣をレクチャーし、プロダクトの価値を正確に示すことで、有料カスタマーになるモチベーションを高めることができます。

5. 無料トライアルユーザージャーニーをマッピングする

ユーザーが無料トライアルをどのように利用するか、また、どこで興味を失い、パイプラインから外れてしまうか細かく把握することが必要です。利用状況を分析することで、ボトルネックやその他の「キーイベント」を特定し、セールスコミュニケーションに活用することができます。

「キーイベント」とは、ユーザージャーニーの中でユーザーがある重要なアクションを起こしたポイントを指します。無料トライアルでトラッキングできる主なイベントは以下の通りです。

  • ソフトウェア内で何らかのアクションを完了した(例:リストの作成)
  • 頻繁にログインしている、または長時間のログイン
  • チュートリアルやガイド付きウォークスルーの完了
  • 他のユーザーを招待し、プラットフォームを試してもらう
  • 営業担当者とのデモの完了

「キーイベント」とコンバージョンの関連性を理解することで、購入に対する意識が高いユーザーが誰なのか特定できます。このような見込み客にはセールスチームが優先的にアプローチします。ウェブサイト訪問から顧客化までのユーザージャーニー全体を把握して、ファネルの中の最も重要なポイントを特定し、コンバージョンのバリアを取り除くアプローチが有効です。

https://ebq.com/saas-free-trial-best-practices/

例えば 無料トライアルのサインアップページからのコンバージョン率が低い場合は、ページにデモビデオや新しいコピーを追加したりしてテストするとよいでしょう。ユーザーがいつ、なぜ無料トライアルを中断するのかに注目し、ユーザーの関心を引きつけるために必要なアップデートを随時行いましょう。

6. オンボーディングプロセスの優先順位付けを行う

効果的なオンボーディングプロセスは、潜在顧客がSaaS製品の購入を決定する、または購入を継続する上で重要です。特に無料トライアルのオンボーディングプロセスは、ユーザーがすぐにプロダクトを試せるように、出来る限りシンプルにする必要があります。主にアプリ内通知、チュートリアルビデオ、メールコンテンツを活用してユーザーをサポートすることで摩擦を取り除くと以下のような効果が期待できます。

  • 無料トライアルをしているプロダクトへのエンゲージメントを高める
  • ユーザーの利便性を高める
  • 長期的にリテンションを高める

まとめ

いかがでしたでしょうか。無料トライアルは優れたオファーであり、コンバージョンを高めることは持続的なビジネス成長につながります。SaaS無料トライアルのベストプラクティスは、プロダクトが提供するバリューや潜在顧客のプロダクトの使用方法に大きく依存します。ユーザーにプロダクトの価値を体験してもらうプロセスの中で、まずは購入の動機となる「キーイベント」を正しく理解することから始めましょう。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。