あなたの会社に最適なマルチタッチアトリビューションモデルは?

最終アップデート: 
June 9, 2022

マーケティング施策の収益への影響を証明するにはマルチタッチアトリビューションモデルで各マーケティングタッチポイントの貢献度合を分析し、可視化することが重要です。今回はマルチタッチアトリビューションの様々なモデルをご紹介したいと思います。

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”Half the money I spend on advertising is wasted; the troubles is I don’t know which half” - John Wanamaker

(広告予算の半分が無駄になっているのはわかっている。問題はどの半分かがわからないことだ ージョン・ワナメーカー)

このクオートは、アメリカで働いていた際にアトリビューションの話題で何度か耳にしました。およそ100年も前に亡くなった方ですが、彼の苦悩は現代のマーケターにも通ずるものがあると思います。もちろん、マーケティング施策単位での効果測定はほとんどの方が行なっていると思いますが、それらが最終的な収益へどう影響を与えているか、はっきりと把握できているマーケティングチームは数少ないのではないかと思います。時間をかけて構築したナーチャリングストリームやウェビナー、広告キャンペーン、イベント…日々限られた予算の中でどれだけ多くのマーケティング施策を行なっても、結局それらがどのようにボトムラインに影響を与えているのか、どの施策が刺さっているのかを証明できる力がなければ「マーケティングはコストセンターだ」と言われてしまったり、予算削減の第一候補となってしまいかねません。そうとなってはチームの士気も損ねてしまいますし、収益に与える影響を可視化することは多くのマーケティングチームの悩みのタネではないでしょうか。

昨今ユーザーの流入経路の複雑化に伴いクロスチャネルでの施策が当たり前になっているため、従来のラストタッチやファーストタッチアトリビューションを使っていてはどのマーケティング施策が効いているのか見えてきません。顧客とビジネスとの接点をより深く理解するためにはマルチタッチアトリビューションモデルで各マーケティングタッチポイントの貢献度合を分析し、可視化することが必要不可欠となっています。

しかし、マルチタッチアトリビューションにも様々な種類があり、どれを使うかによってマーケティングのボトムラインへの貢献度が大幅に変化することも多々あります。自社に適切なモデルはいくつか試してみないとわからない場合もあるでしょう。今回はマルチタッチアトリビューションの様々なモデルをご紹介したいと思います。


マルチタッチアトリビューションの種類

以下に代表的なマルチタッチアトリビューションモデルを挙げました。これらは全て事前に決められた数式で各マーケティングタッチポイントの貢献度を計算するアトリビューションモデルです。

●  リニア型

リニア型は中でも一番シンプルで、全てのタッチポイントに平等に貢献を割り当てるモデルです。このモデルは検討期間が長く、カスタマージャーニーの中で何度もマーケティングメッセージを訴求する必要のある商材で多く使われています。シンプルでわかりやすいため、マルチタッチアトリビューションを初めて使う場合に適したモデルでしょう。


考慮するべき点は貢献度合が均等に割り当てられるため、エンゲージメントの深さや時期が多岐にわたる様々なマーケティング活動の貢献度を本当に均等分割していいのか?ということです。私が所属していたチームでは長い間このモデルを使用していましたが、実際のところ全ての施策が均等に貢献をしているはずはなく、もっと忠実に貢献度を可視化できないかという声が上がりました。詳細は以下でご紹介いたします。

 

●  U型

U型はファースト、ラストタッチポイントに40%ずつ、その中間のタッチポイントに20%を均等に割り当てるアトリビューションモデルです。これは検討期間が比較的に短い商材に使われることが多く、入り口と出口に重きを置くモデルです。
 

●  W型

W型はU型と類似していますが、ファーストタッチ、リード獲得時、ラストタッチ時にそれぞれ30%ずつ、残り10%をその他タッチポイントに均等に割り当てるモデルです。コンバージョンを促したタッチポイントを重視しながら、その他二つのタッチポイントを抑えることができます。

 

●  減衰型

減衰型はラストタッチに一番比重をおき、時間を遡るごとにその貢献度を低く設定するモデルです。これはコンバージョンに近いアクティビティを高く評価するため、リードジェネレーションやその他ファネル上部のマーケティング施策の貢献を可視化することが難しくなる傾向があります。短期間キャンペーンのタッチポイントを計測するのに適したモデルでしょう。


●  カスタム

今までご紹介した中でどれも合わない場合は、カスタマイズして自社独自のモデルを構築するのも選択肢です。ただ、自社モデルを構築するにはどんなモデルが合うのか合わないのか、そしてその理由を熟知していること、複雑なモデルを構築、メンテナンスできるリソースがあることが必要です。マーケティング部署だけでなく、IT部門や会社全体のヘルプが必要になるヘビーなプロジェクトになるでしょう。

社全体で適切なマルチタッチアトリビューションモデルの必要性を認識している会社の中には、機械学習を用いて影響のあったマーケティング施策とそうでなかったものを分類し、貢献度を割り当てるデータドリブンなモデルを自社で運用している会社もあります。精密なモデルを作るのも大事ですが、最初から飛び込まずまずは既存のモデルで運用して何が合うのか、合わないかのデータを集めることが重要でしょう。


適切なマルチタッチアトリビューションモデルの模索

前述した通り、以前いたマーケティングチームではリニア型を長らく使用しており、全ての施策を評価してくれる一方、もっと忠実に貢献度を可視化できないかという声が多くでていました。例えばウェビナー参加と、ターゲット顧客トップ数社を招いて1泊2日で行った自社イベントではその予算はもちろん、エンゲージメント度合いが違うのは肌感ではっきりわかっていました。自社イベントでは今まで聞き出せなかった内容を知れたり、パーソナルな関係を築けたりと、数字では汲み取りきれないエンゲージメントを高められたのです。


他モデルの検討やカスタムモデルを構築も検討しましたが、何が正解か分からなかった上にリソースもなかったため試行錯誤の連続でした。部署外にプレゼンする際はMROIや、主要キャンペーンKPIを加えて多角的にマーケティング施策の貢献度を証明するように努めましたが、マーケティング側の主観が入りすぎてもダメですし、理論上では筋が通っても実際にマーケティングキャンペーンを回している側から見ると納得いかなかったり…ということが多くありました。結局のところリニア型をベースに他データを組み合わせる形で回していましたが、それが最善だったかは謎が残るところです。


このように、適切なモデルは見つけるのに長い時間を要する場合もあるでしょう。業界のスタンダードやこれが正解!というカタチがない分、自社にぴったりの方法を模索するのは大きな課題になると思います。ただ、アトリビューション分析をしっかりすればマーケティングの貢献を証明するだけでなく、効率的な予算分配にもつながります。リソースの限られた中小企業などでは大きなチャレンジですが、その価値は十分あるでしょう。

Iku Hirosaki
Iku Hirosaki
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廣崎 依久
取締役 兼 COO | Board Member and Chief Operating Officer

大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだ後シリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてフィールドマーケティング及びエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りDSPベンダーのMediaMathにてAPAC地域のフィールドマーケティング及びマーケティングオペレーションを担当。01GROWTHでは教育サービスの開発に加え、国内外のコンサルティング業務を行う。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。